削られる時間

保護するにあたって決まり事をつくった。
基本的に部屋から出ないこと、余計な詮索はするなということだ。
何度もこいつに尋ねられた山崎の部屋なんざ正直知ったこっちゃねえが、余計な動きで仕事に関わるもんを見つけられる訳にはいかなかったからだ。
レポートが作文だとしてもな。
まぁ山崎が帰ってくりゃその辺は上手くやるだろ、と思ってるあたり多少は許しているのかもしれない。
まったく、鬼の副長と呼ばれる俺らしくもないが。


廊下を歩きながら煙草が切れたことを思い出す。
いつも通り山崎と呼んだ後に、しまったと思った。
横の部屋のふすまが勢いよく開き、目を向けるとそこには保護したばかりのみょうじがいる。
廊下へ目をきょろきょろとさせてから、俺の方を向くと分かりやすいくらい落ち込んだ顔をした。
そもそも山崎はまだ帰ってこねえって言っておいただろうが。

「山崎に煙草買いに行かせようかと思ったんだが…」
「まだ帰ってきてませんよね。マヨボロならストックあるのでどうぞ」
「お前喫煙者か?」
「退くんがよく買いに行くからいつも持ってあるんです。退くんといる時間は1秒も無駄にしたくなくて」
「………まじでか」

それはもはや、山崎のためというより俺のためになっているのではないだろうか。
チクリと無駄な時間と言われているようだが気にせずに、差し出された煙草を受け取って、みょうじの顔をじっと見つめる。

こんなナリして山崎をストーカーまでした挙句落としてんだ。
うちにいるストーカーはいつもボコボコになって帰ってきているというのに、あの山崎だからこそなのかもしれないが大したもんだな。
ただ自分の置かれてる状況を分かってないのか、二言目には山崎はいつ帰るんだとか、いつも屯所ではどんな様子だとか山崎のことしか会話しかしてこない。
聴取の時もろくに話さねえで、やっと喋ったと思ったら布団くださいときた。
まぁ悪い奴ではないのだろう、少し、いやかなり好きなもんに対してだけ強いだけか。

「あ、あの……まだ、何か御用ですか」
「何でもねぇよ。煙草、悪ィな」

部屋から出んじゃねーぞ、と言い残してふすまを閉めた。
この言葉こそ無駄になるんだろうがな。
 
もどる
はじめ