思うことは悪いことかな


結果として近藤さんのはからいでとうぶん屯所に泊まることになった。
泊まるというよりも正しくは保護という名目なんだけれど。
明日改めて証拠品を取りに帰るようだ。
そこで僕がいままであの人から貰ったものは「証拠品」の名前が付けられるのだと、やっと大事になっている実感がわいた。
写真も手紙も声をかけることすら、相手が否定してしまったらそれは罪になってしまう。
ならば、僕はあの人の行動を本当に否定できるんだろうか。


そんなことを、沖田さんが持ってきてくれた退くんの布団の上で考える。
まさか本当に貸してもらえるとは思ってなくて、こんな状況下のなかも僕はにんまりと笑ってしまう。
沖田さんはおっさんのにおいがするやつのどこがいいんだ、って言っていたけど、退くんだからとしか言い様がなくって少し呆れた顔をしていた。
僕はできるなら使用済みティッシュとか割り箸とかコレクションしておきたいタイプだよ。
家に来てくれた時はこっそり保存していることもあるけど大体バレて怒られちゃう。
歯ブラシとか下着とかね。
ちなみに退くんのお部屋の場所をきいてみたけどやっぱり教えてもらえなかったから、退くんが帰ってきてからお願いしてみようかな。
退くん早く帰ってきたらいいなぁ。
退くんのにおいがするお布団はより恋しくさせてしまって困ってしまうね、えへへ。



次の日、沖田さんと家にある証拠品を取りに帰った。
本来なら上がってもらうべきなんだろうけど、部屋のなかは退くんの写真でいっぱいだから、さすがにそれを見せるわけにいかない。
僕がこんなストーカーだなんて知られたら退くんに迷惑がかかってしまうかもしれないし、沖田さんだけでなく近藤さんとお話していた時もそれだけは素直に答えられなかった。
直ぐに準備するからと、不満そうな沖田さんには悪いけれど玄関で待っててもらった。

簡単に荷物をまとめて、リビングに置いていたあの手紙や写真を手に取る。
隠し撮りであろう写真のなかの僕はすべて別のところを向いていて、僕が退くんと付き合う前に撮っていた写真に似ていると思った。
いろんな表情をしているのにファインダー越しにしか見れなくて、1度もこっちを向いてる写真なんて撮れなかったな。
おいみょうじ、と呼ばれた声で、我に返って振り向けばリビングに沖田さんが立っていた。

「な…!入っちゃだめって!」
「おーおー、こりゃすげぇこった。山崎だらけじゃねえか」

見られてしまった。
この人が素直に待っててくれるタイプでないことなんてわかっていたはずなのに、うっかり考え事をしていたせいだ。
気持ち悪いって、変だって、言われるかな。
僕にはこれしかないのに。

「何してんだ、準備できてんならさっさと行くぞ」
「え…、引かないんですか?」
「おめーがザキのストーカーなのは今更だろ」
「知って…!」
「あんだけいつも写真撮られてりゃ馬鹿でも気づきまさァ」

沖田さんが指をさした壁にあったのは、退くんがパトカーを運転している写真だった。
その助手席には沖田さんがいる、といっても退くん以外トリミングしているからかろうじてわかる程度だけど。

「昨日も布団貸してくれだ部屋に行きたいだわがままばっかり言いやがって」
「…ごめんなさい」
「ったく、ペットならちゃんと飼い主に躾られとけ」
「退くんから躾…っ!」
「喜んでんじゃねえよ、俺がちゃあんと調教してやろうか?」

首を大きく横に振って拒否すると、沖田さんはいじわるにニヤリと笑った。
僕が思っていた以上にこの人はやさしいのかもしれない。


そして、僕たちは荷物を持って家を後にした。
沖田さんの手にまたひとつ、新しい手紙が握られていることに気づかないまま。

 
もどる
はじめ