取り残されたのは
「最近見かけねえんですが、何か聞いてますかィ」
「俺が知るわけねえだろ」
その答えにおもしろくなさそうな顔で、ふうんと呟いてどこかへ行ってしまった。
総悟が聞いてきたみょうじなまえ、どうやらそいつは浮気をしていたらしい。
というのも山崎を仕事で呼び出せば何故かやつれた顔をしていて、少しつついてポロリと零したのがそのこと。
色恋沙汰となると毎回こじれてしまうらしい性質はご愁傷さまとしか言いようがない。
とはいえ今回は相手を知ってるだけになんとなく同情心が芽生えて、せめてもの救いで手持ちのマヨネーズを差し出せばぎゃあぎゃあやかましくなった雰囲気に安心したのもつかの間。
数日あけて再び山崎の所へ訪れれば、動き出しそうな気配となっていたのはアイツらだけじゃなかったようだ。
「副長、最近なまえくん見かけましたか」
「知らねえよ。誰かさんとこでしっぽでも振ってんじゃねえか」
ジトーっとした目線をこっちに向けられて気が滅入る。なんだよお前、未練たらたらじゃねえか。俺ァてっきり終わったもんだとばかり思ってたが。
「そうですよね。俺なんかじゃなくてもう…」
「重い男はモテねえぞ。つーかさっき総悟にも同じ事聞かれた。どうせ引きこもってんだろ」
「じゃあなまえくんの様子見に行った方がいいですよって伝えてください、沖田隊長に」
「なんで総悟なんだよ」
「………その浮気相手だからですよ」
いやいやいやいや総悟なわけなくね?!お前何言っちゃってんのォ?!
てかあんだけ山崎にまとわりついといて今更総悟に路線変更とかどう考えてもおかしいだろ。おかしいよな。そんなの俺でもわかるっつーのにマジで何言ってんだお前。
なのに爆弾発言をした当人はもう双眼鏡をのぞいて仕事に集中していた。これガチなやつかよ。
「おい総悟、みょうじのとこ行ってこい」
「なんで俺がそんなことすんですかィ。めんどくせーな」
「山崎がそう言ってたんだよ。お前ならわかんだろ」
「そんなん山崎がどうにかすりゃいいだろうが」
どうも噛み合わない会話に、単刀直入が一番だと判断してぶったぎる。
じゃねえと山崎も成仏できないだろうと、せめてもの情けをかけたのが間違いだった。
「……お前、その…みょうじと、付き合ってんだろ」
「土方さん正気ですかィ。ついに頭ん中までマヨネーズになっちまったとは、さっさと死んだほうが世のためですぜ」
「なんだテメー!俺ァ心配してだな…!」
「俺が調教済の豚に興味あると思いやす?少し遊んだくらいでそんなこと言われるとはねェ」
「……遊んだってなんだ」
「なーにえろいの想像してんですかい。ちょっくら喫茶店でジュース飲んだだけですぜ、健全にな」
てことは山崎の勘違い…?
目の前の総悟はニタァと悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。最ッ悪だ!めんどくさいことに巻き込まれてンだけどォ!
あのヤロー帰ってきたらぶっ殺す絶対殺す。
「ま、こうなったらピンポンダッシュくらいはぶちかましに行きやしょうや」
めんどくさいといった割に総悟の足は動いていた。恐らくみょうじのことを気にはなってたんだろう。
山崎を向かわせるのが一番手っ取り早いがそれができない以上、ここまできたら生存確認くらいはしてやってもいい。ただし山崎は後で殺す。
しかし総悟に連れられて家へと向かったところで、チャイムを鳴らしてもなんにも反応はない。
中にいないのか居留守を使ってるのか知らねえが、ドアをぶっ叩こうが変わらず反応はない。
「おーいなまえ遊びに来てやったぜ〜早く出てこねえとクソヤローの死体ぶち込むぜ〜」
「おいその死体俺じゃねえよな?」
「どうせまた居留守ですぜ。あーあ、やんなっちまうなぁ」
「……っておいバカ、そんなのぶっ放すんじゃねぇ!」
「こっちは浮気相手に疑われたんですぜ?ドアぶっ壊すくらい可愛いもんでさ」
しびれを切らした総悟がドアに向かってバズーカを放とうとするから、せめてもの思いでドアノブに手をかけた。
すると予想と反して開いた扉は、光をさしこむ。
「あ?鍵開いてんじゃねえか、よ…」
「…なまえ!」
そこには玄関で倒れるみょうじがいた。
***
「…っん……退く、ん…?」
「目ェ覚ましたと思ったら、第一声がそれか?」
「退くん、は……」
「あいつは仕事だ。この数週間ずっとな」
ほっとしたような顔を見せるこいつは、この状況がまだわかっていないらしい。
自分が病院に居ることよりも、あいつのことが気になるとはな。
「お前家で倒れてたんだぞ」
その言葉にぎゅっと口を噤む。
何してたんだとか聞いたところで顔を背けて返事もしねぇから、最初はばつが悪いのかと思ったがどうやら違うらしい。
単純にしゃべりたくねーってか。助けてやったというのになんて態度だ。こりゃあ飼い主のしつけが悪いせいだな。
「あのなぁ、俺らは……」
「様子見に来てやったら案の定でさ」
俺の言葉を遮ってみょうじに近づいていく総悟。
「どうせ山崎に浮気疑われて引きこもってたんだろ」
「……っ」
「そんくらいなんで俺に言わねぇんだよ。面倒みてやるって言っただろうが」
ぽろりと流れた涙が、正解だと言っていた。こいつをここまで追い詰めたのは山崎なのだと。
そして一言助けを求めればすぐに解決した問題でもあったはずだ。
総悟がみょうじの手を掴んで、点滴が揺れる。
「こんなに腕細くしちまってよ、どうやったらこうなれんだ?」
「………」
「まだしゃべんねーってのかィ。お前山崎がいないと本当になんもできねぇんだな」
「……っ、い…!」
「おい、総悟やりすぎだ」
痛がるみょうじの手を慌てて離してやれば、総悟に悪態をつかれる。
ここまで拒絶されるとは思わなかったのだろう。めずらしく総悟から怒りが伝わってきて、何とも言えない気持ちになってしまう。
みょうじは涙を流す度に山崎の名前を呼ぶ。その痛々しい姿は、今はただ総悟を苛立たせるだけだ。
こうなったら俺たちが何を言っても無駄なのだろう。
「総悟、行くぞ」
「……チッ」
「みょうじ、お前のことは伝えとく。間違っても変な気ィ起こすんじゃねーぞ」
泣き声だけが響く病室から出れば、窓から吹く風が顔を撫でる。その静めるように吹いた風すら鬱陶しいというように、総悟は壁を殴った。
「俺たちが行かなかったら、死んでたかもしんねぇなんておかしいだろ。ザキが代わりになりやがれってんだ」
「総悟……」
「なんだよ、アイツ。せっかくの土方ぶっ殺したい同盟だったのによ。一緒に土方を殺すまで勝手に死ぬんじゃねえよ!」
「おい、何だそれ。なんつー同盟組んでんだおめーら」
こいつらの関係性というのは深くは知らないが「面倒みてやるって言っただろう」との言葉からもそこにある信頼を感じ取ることは容易い。
そしてみょうじにとっても、山崎以外に少しでも心を許せる奴が出来たことは良かったはずだ。
元に総悟の言葉には耳を傾けて、涙すら流していたのだから。
それでも何もかもを捨ててしまうほど、山崎に疑われたことが信じられなかったのだろう。
あと少しで死んでしまうほど追い詰められたのに、今も山崎のことだけを待っている。
まるで世界にお前らふたりしかいないとでもいうようだ。
「愛だの恋だの、面倒くさくてかなわねぇな」
「急にどうしたんですかィ。キモイです」
「うっせぇよ!とっとと仕事もどんぞ!」
どっちにしろ、今俺に出来ることは現状を伝えることだけだ。
ここまで巻き込まれたら面倒みてやるしかねぇからな。
「俺が知るわけねえだろ」
その答えにおもしろくなさそうな顔で、ふうんと呟いてどこかへ行ってしまった。
総悟が聞いてきたみょうじなまえ、どうやらそいつは浮気をしていたらしい。
というのも山崎を仕事で呼び出せば何故かやつれた顔をしていて、少しつついてポロリと零したのがそのこと。
色恋沙汰となると毎回こじれてしまうらしい性質はご愁傷さまとしか言いようがない。
とはいえ今回は相手を知ってるだけになんとなく同情心が芽生えて、せめてもの救いで手持ちのマヨネーズを差し出せばぎゃあぎゃあやかましくなった雰囲気に安心したのもつかの間。
数日あけて再び山崎の所へ訪れれば、動き出しそうな気配となっていたのはアイツらだけじゃなかったようだ。
「副長、最近なまえくん見かけましたか」
「知らねえよ。誰かさんとこでしっぽでも振ってんじゃねえか」
ジトーっとした目線をこっちに向けられて気が滅入る。なんだよお前、未練たらたらじゃねえか。俺ァてっきり終わったもんだとばかり思ってたが。
「そうですよね。俺なんかじゃなくてもう…」
「重い男はモテねえぞ。つーかさっき総悟にも同じ事聞かれた。どうせ引きこもってんだろ」
「じゃあなまえくんの様子見に行った方がいいですよって伝えてください、沖田隊長に」
「なんで総悟なんだよ」
「………その浮気相手だからですよ」
いやいやいやいや総悟なわけなくね?!お前何言っちゃってんのォ?!
てかあんだけ山崎にまとわりついといて今更総悟に路線変更とかどう考えてもおかしいだろ。おかしいよな。そんなの俺でもわかるっつーのにマジで何言ってんだお前。
なのに爆弾発言をした当人はもう双眼鏡をのぞいて仕事に集中していた。これガチなやつかよ。
「おい総悟、みょうじのとこ行ってこい」
「なんで俺がそんなことすんですかィ。めんどくせーな」
「山崎がそう言ってたんだよ。お前ならわかんだろ」
「そんなん山崎がどうにかすりゃいいだろうが」
どうも噛み合わない会話に、単刀直入が一番だと判断してぶったぎる。
じゃねえと山崎も成仏できないだろうと、せめてもの情けをかけたのが間違いだった。
「……お前、その…みょうじと、付き合ってんだろ」
「土方さん正気ですかィ。ついに頭ん中までマヨネーズになっちまったとは、さっさと死んだほうが世のためですぜ」
「なんだテメー!俺ァ心配してだな…!」
「俺が調教済の豚に興味あると思いやす?少し遊んだくらいでそんなこと言われるとはねェ」
「……遊んだってなんだ」
「なーにえろいの想像してんですかい。ちょっくら喫茶店でジュース飲んだだけですぜ、健全にな」
てことは山崎の勘違い…?
目の前の総悟はニタァと悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。最ッ悪だ!めんどくさいことに巻き込まれてンだけどォ!
あのヤロー帰ってきたらぶっ殺す絶対殺す。
「ま、こうなったらピンポンダッシュくらいはぶちかましに行きやしょうや」
めんどくさいといった割に総悟の足は動いていた。恐らくみょうじのことを気にはなってたんだろう。
山崎を向かわせるのが一番手っ取り早いがそれができない以上、ここまできたら生存確認くらいはしてやってもいい。ただし山崎は後で殺す。
しかし総悟に連れられて家へと向かったところで、チャイムを鳴らしてもなんにも反応はない。
中にいないのか居留守を使ってるのか知らねえが、ドアをぶっ叩こうが変わらず反応はない。
「おーいなまえ遊びに来てやったぜ〜早く出てこねえとクソヤローの死体ぶち込むぜ〜」
「おいその死体俺じゃねえよな?」
「どうせまた居留守ですぜ。あーあ、やんなっちまうなぁ」
「……っておいバカ、そんなのぶっ放すんじゃねぇ!」
「こっちは浮気相手に疑われたんですぜ?ドアぶっ壊すくらい可愛いもんでさ」
しびれを切らした総悟がドアに向かってバズーカを放とうとするから、せめてもの思いでドアノブに手をかけた。
すると予想と反して開いた扉は、光をさしこむ。
「あ?鍵開いてんじゃねえか、よ…」
「…なまえ!」
そこには玄関で倒れるみょうじがいた。
***
「…っん……退く、ん…?」
「目ェ覚ましたと思ったら、第一声がそれか?」
「退くん、は……」
「あいつは仕事だ。この数週間ずっとな」
ほっとしたような顔を見せるこいつは、この状況がまだわかっていないらしい。
自分が病院に居ることよりも、あいつのことが気になるとはな。
「お前家で倒れてたんだぞ」
その言葉にぎゅっと口を噤む。
何してたんだとか聞いたところで顔を背けて返事もしねぇから、最初はばつが悪いのかと思ったがどうやら違うらしい。
単純にしゃべりたくねーってか。助けてやったというのになんて態度だ。こりゃあ飼い主のしつけが悪いせいだな。
「あのなぁ、俺らは……」
「様子見に来てやったら案の定でさ」
俺の言葉を遮ってみょうじに近づいていく総悟。
「どうせ山崎に浮気疑われて引きこもってたんだろ」
「……っ」
「そんくらいなんで俺に言わねぇんだよ。面倒みてやるって言っただろうが」
ぽろりと流れた涙が、正解だと言っていた。こいつをここまで追い詰めたのは山崎なのだと。
そして一言助けを求めればすぐに解決した問題でもあったはずだ。
総悟がみょうじの手を掴んで、点滴が揺れる。
「こんなに腕細くしちまってよ、どうやったらこうなれんだ?」
「………」
「まだしゃべんねーってのかィ。お前山崎がいないと本当になんもできねぇんだな」
「……っ、い…!」
「おい、総悟やりすぎだ」
痛がるみょうじの手を慌てて離してやれば、総悟に悪態をつかれる。
ここまで拒絶されるとは思わなかったのだろう。めずらしく総悟から怒りが伝わってきて、何とも言えない気持ちになってしまう。
みょうじは涙を流す度に山崎の名前を呼ぶ。その痛々しい姿は、今はただ総悟を苛立たせるだけだ。
こうなったら俺たちが何を言っても無駄なのだろう。
「総悟、行くぞ」
「……チッ」
「みょうじ、お前のことは伝えとく。間違っても変な気ィ起こすんじゃねーぞ」
泣き声だけが響く病室から出れば、窓から吹く風が顔を撫でる。その静めるように吹いた風すら鬱陶しいというように、総悟は壁を殴った。
「俺たちが行かなかったら、死んでたかもしんねぇなんておかしいだろ。ザキが代わりになりやがれってんだ」
「総悟……」
「なんだよ、アイツ。せっかくの土方ぶっ殺したい同盟だったのによ。一緒に土方を殺すまで勝手に死ぬんじゃねえよ!」
「おい、何だそれ。なんつー同盟組んでんだおめーら」
こいつらの関係性というのは深くは知らないが「面倒みてやるって言っただろう」との言葉からもそこにある信頼を感じ取ることは容易い。
そしてみょうじにとっても、山崎以外に少しでも心を許せる奴が出来たことは良かったはずだ。
元に総悟の言葉には耳を傾けて、涙すら流していたのだから。
それでも何もかもを捨ててしまうほど、山崎に疑われたことが信じられなかったのだろう。
あと少しで死んでしまうほど追い詰められたのに、今も山崎のことだけを待っている。
まるで世界にお前らふたりしかいないとでもいうようだ。
「愛だの恋だの、面倒くさくてかなわねぇな」
「急にどうしたんですかィ。キモイです」
「うっせぇよ!とっとと仕事もどんぞ!」
どっちにしろ、今俺に出来ることは現状を伝えることだけだ。
ここまで巻き込まれたら面倒みてやるしかねぇからな。