願いはくちのなか

なまえくん禁止生活×日目。

今日はなまえくんと沖田隊長が部屋から出てきた所を運良く見つけて突撃しようとしたが、それに気づいた隊長がバズーカをこちらに向けて俺の行く手を阻んだ。それに怯まず当たって砕けろ作戦に出たが案の定砕けた。2発はさすがに死にますって。いややめて3発目を向けないで!廊下で動けなくなりつつも目で追えば顔色の悪い様子にぐっと胸が痛む。

食事についても部屋で取ってるようで病院食のようなおかゆがお盆にのせられていくのを見た。出てくる時もあんまり量が変わってなかったけど。
なまえくんはこういう時俺が食べさせてあげないとだめなんだ。わかってるのに、会いたくないと言われている俺にはただ待つことしかできない。
日々の業務をこなしながら合間を縫ってなまえくんの様子を伺っては、ただ悲しくなる。

その夜また部屋の前で座り込んでみたがなんにも聞こえてこない。部屋の明かりは消えているからすでに休んでいるんだろう。しかしあの可愛い寝顔を前にして正気で居られるとは思わない。いたずらされてないことを祈るばかりだ。頼む、頼むよ絶対に手を出さんでくれ。お願いします!
もんもんとした気持ちのまま気づけば朝を迎えてた。



今日は沖田隊長が外に出るらしい。
その間、なまえくんのことは副長が書類をやりながら見ているらしく、正直誰かに見て貰えるなら安心できるというのが本音だ。
早く仕事を終わらせてしまおうとパトカーに乗り込めば、何故か助手席にはガムを噛んだ沖田隊長がいた。

「今日って沖田隊長とでしたっけ…?」
「おう、とっとと車出せや」

多分アレをアレしてアレしたんだろう。
これが俺への助け舟のような気はしないし、なまえくんを助けるような事を言われる気もしない。その沈黙に耐えられなくなった俺は口を開く。

「あの、なまえくんの様子は…」
「至って元気だぜ。今頃部屋でシコってらァ」
「そんな嘘つかんでください。第一副長がいるってのに出来るわけないでしょう。なまえくんのことなんだと思ってんですか」
「案外わかんねーぞ。なまえだって男の子だからなァ」
「…………いつから呼び捨てにしてるんですか」

噛んでた風船ガムが弾けて、パチンと鳴る。

「俺たちはマブダチだからねィ。当然なこった」
「前もふたりで喫茶店にいましたよね。それって…」
「お前が言える立場かよ」

ぐっと噛み締める唇に、沖田隊長はまたガムを膨らます。
俺はただ前を向いて車を走らせれば、つまらなそうな声で話し始めた。

「どうやって土方さんを抹殺するか会議してたんでィ」
「なんで副長を?」
「思い当たんねーのか?お前の前ではずいぶん大人しくしてたんだなァ。俺にはいっつもブチ切れまくってんぜ」

思い当たる節がないわけじゃない。
一緒にいる時に副長から電話がかかってきたり、俺が殴られてるのを見たなまえくんはいつもめそめそと悲しい顔をしていた。だけどその後に決まって「副長さんがいなくなったら退くんは幸せになれる?」「俺はなまえくんといるだけで幸せだよ」とバカップルのやり取りをしていた。そう、つまりそれこそが答えだった。今思えば殺す気マンマンじゃん!なんで気づかないの俺ェ!
なまえくんの部屋にあるマヨボロのカートンやマヨネーズ(俺がパシられる故の常備)、つまりあれにも恨みがこもっていた。さすが気が利くゥ〜とかじゃなかったやばい。じゃあ今日ふたりでいるのまずいじゃん。全然安心なんかできないじゃん!

「代わりに調教してやってもいいんだぜ」
「いや俺のを勝手に調教しないでください」
「俺の、ねぇ」
「お、俺のですよ…!悪いですか」

沖田隊長からしたら柴犬、いや下手したらチワワが吠えた程度の威嚇だ。
案の定、鼻で笑われてイヤホンをし始めてしまった。いや仕事中なんで外してくださいよ。
正直、隊長が何を考えているか分からない。これだって何を伝えたかったんだろうか、と俺はひとり悩みながら車を走らせるのだった。



帰ってから副長の元へ訪れれば、やはりなまえくんはもう居ない。徹底的に会わせないようにされていることを感じる。

「あのなまえくんは……」
「あ?あいつなら元気だ元気。さっきまでラジオ体操してたぞ」
「いやそんな嘘つかんでください。とっくに夕方ですし」

副長までなんなんだ。このいじりが流行ってんのか?
こっちは身を案じてたというのに。なまえくんはやる時はやる子だって知ってるでしょう。

「ご飯はちゃんと食べてました?」
「それなら問題ねぇ。土方スペシャルを食わせてやった」
「な……!なんてことしてんですかアンタ、そんなの食わせたら治るもんも治りませんよ!」
「んだコラ山崎ィ!てめっマヨネーズは怪我の回復にも効くんだよ!」
「効かねーよ!なんなら悪化するまであるわ!」

あ、やべ言いすぎた。逃げろ!そもそもなまえくんはあれ食べれたの…?
急いでなまえくんの部屋まで向かえば、沖田隊長の声がする。

「犬の餌なんか食うからでィ」
「好物だって言うから……一口だけ、うええ…」
「ほら言わんこっちゃねぇ。あいつの言うことなんか聞くからこうなるんだよ」
「絶対許さない」

なまえくん副長のことすごく恨んでるね!初めてこんな過激な言葉を君から聞いたけど嫌いじゃないよ、うん。ちょっとびっくりしちゃったけど俺はありのままの君を受け入れる!あとマヨネーズのせいでだいぶ弱ってるね。あんなの好物なわけないじゃないか。好物……?

「つーか、食う必要なかっただろ」
「……?」
「あれが誰の好物だって?」

誰の?きっと俺のだ。
マヨネーズに意識を持ってかれすぎたのか、うまいこと言われて反応してしまったんだろう。恐らく副長もそのあたりの様子を見ているはずだ。本人にも分からないようにしれっと探ってる。現にこのやりとりまで気づいてなかった。

「…………ぼ、僕の」
「今更おせーや。バレバレでィ」

俺のことを嫌いだと言って寄せ付けなかった君が、少しだけ本心を見せてくれた。
ガッツポーズをして喜んだのもつかの間。

「とっとと失せな」

中から出てきた沖田隊長に廊下から蹴落とされた俺は、幸せモードから一転。土まみれになるのであった。

 
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はじめ