言い訳ばかり

なまえくん禁止生活×日目。

先日、なまえくんがまだ俺のことを好きでいてくれていることが判明した。嫌いなんてやっぱり嘘じゃないかと、俺は今までより多く部屋の外から話しかけるようにした。もちろん沖田隊長に追い払われるし、刀を持った副長にも散々追いかけられている。
そんな日々が続いていたのに、突然ずっと会えなかったなまえくんに会うことが出来た。なまえくんが部屋の外にいるのだ。

廊下で局長と並んで歩いて、両手に持たされた袋には破亜限堕津の文字が透けて見えた。これはどうみても姉御への貢物だ。
ついに日常に戻ったのかもしれない、そう思った俺は声をかけた。あわよくば抱きつこうとした。
しかしなまえくんは俯いてしまって、会いたくなってくれたわけではないと感じる。局長が無理やり連れ出したんだろうか。視線を向ければ、挙動不審になりつつウホウホ言っている非常に怪しいゴリラがいた。
なんか変だなと思いつつ俺は話を続ける。あえていつも通りに。

「局長と買い物行ってたの?」
「えーと、これはだなぁザキ…お妙さんへのプレゼントを買いに行くのを手伝ってもらったというか……あ!お前にも買ってきたぞ!」
「ありがとうございます。でも俺の分もなまえくんにあげていいですか。この味好きだったもんね」
「ん?それはお前の好きな味だろう。なまえくんはこっちの…」

なまえくんは局長の後ろに隠れてしまった。
そうか、君は俺の好きなものが好きだった。そういう子だって分かってたはずなのに、俺は知った気になってただけなのかもしれない。こんなことすら知らなかったなんて。
手からぽたりと水滴が落ちる。

「いまのなし!俺何も言ってないもんね!ザキも忘れて!はいポカンッ忘れた〜」
「忘れませんよ。ちゃんと覚えておきます。ねぇなまえくん……」
「あーーー!そろそろお昼寝の時間じゃないかなぁ、ウンウンそうだよねなまえくん!お部屋戻ろっか!ねっ!」

お昼寝ってここは幼稚園かなんかか!とつっこむ前にふたりはいなくなってしまう。
行き場のない手のひらが冷えていくのをアイスのせいにして。



仕事が終わって屯所に戻れば、なにやら隊士共が騒がしくしている。
隊長が世話してる!明日世界が終わる!と口々に言うがなんか犬でも拾ってきたわけ?食堂に動物を連れ込むのはどうかと思うけど、って何となく嫌な予感がする。まさかそんなわけないよね。

「とんだ甘えたちゃんだねィ。さっさと口開けな」
「あ、ん……っ」
「ほらこぼすんじゃねえよ。床まで舐めさせんぞ」

何これ!何が起きてんのォオオオ!
なまえくんずっと部屋でご飯食べてたじゃん。なんで急に食堂にいんの。なんで沖田隊長にあーんされてんの!
そのまま親指で拭われたものを口に運ばれると、なまえくんは躊躇いながらもそれを舐めとった。俺以外にそんなことしちゃう?うっわマジか。嫉妬どころじゃない気持ちで炎上してるんだけどどうしてくれんの。
そもそもなまえくんの食べこぼしなら俺がいくらでも舐めとりますけど?なんなら俺が担当ですけど?
てかあの人わざと食べづらくしてんじゃん。しかもシチューとか白いやつ選んだのわざとじゃん絶対!

「んだよ元カレは黙ってろィ」
「いやまだ何も喋ってないです。てか元じゃないです今カレです!ねっなまえくん……え、そうだよね俺が本命彼氏だよね?」
「ほら、とっくに元カレじゃねぇか。この程度で騒ぐたぁ、余裕ねーなァ」

目を合わせてくれない姿にしっかりとダメージを受ける。
このままだと本当に調教されてしまうのではないか。沖田隊長と長い時間一緒に居すぎて毒されてしまったのではないか。そいつだけはまずい離れてくれ!

「……っ!」

なまえくんの身を案じて手を伸ばすと、身体をびくりと跳ねさせた。

「あーらら、嫌われてやがるぜ」

向けられたスプーンが俺の心臓を撃ち抜く。
全部わざとだと思った。そんなのはわかってた。そもそもこの出来事自体は仕組まれたことだと思うんだ。局長と一緒にいたことも、この食堂でのことも。
でもそこにあるなまえくんの反応だけは本物でズキズキと心は痛む。

「なまえくんが少しでもご飯食べれてるなら良かったよ。俺ずっと心配でさ……はは」

なまえくんは唇を噛み締めたと同時に、席から離れて行ってしまった。それを追うように沖田隊長もいなくなる。片しとけ、と言葉だけを残して。
はいはいあの様子じゃ戻ってこないですもんね。
俺はそのまま席に座ると、さっきまでなまえくんが使ってたスプーンでシチューを口に運ぶ。
間接キスだ、なんて思いながら。
俺たちあれからキスなんてしてないんだね。
寂しいよ、早くなまえくんに触れたいなぁ。



その夜、いつも通りなまえくんの部屋に向かえば、ちょうどふたりがこちらへ廊下を歩いてくる。
なまえくんは俺に気づくと持っていた枕をぎゅうっと抱きしめて立ち止まる。それだけならまだよかった。するりと伸ばした手を沖田隊長と繋いでしまうまでは。
俺は一歩近づくたび、比例するようにもやもやとした気持ちが増えていく。

目、合わせてくんないね。そんなに後ろめたい?
枕なんか持って今日はそっちで寝るんだ。
俺だってなまえくんに触れたいのに。

すれ違う瞬間、久しぶりになまえくんの香りをかいだ。それが引き金になったんだと思う。俺は後ろからその腕を掴む。

「なまえくん」

沖田隊長は意外にもじっと様子を伺ってる。きっと試されてるんだ。俺も、なまえくんも。
だってこれもわざとだろ?そんなことはわかりきってる。こんなことをしてしまうほどなまえくんの心はすり減ってしまった。いや俺がすり減らしたんだ。
なのに、我慢できなくて触れてしまった。
なまえくんは言葉を発さない、いや発せないんだろうね。俺からはその表情を伺うことは出来ないけど、沖田隊長のため息が物語ってる。
後悔するくらいならやるなよ、馬鹿だなぁ。

「……行くぞ」

離れていく姿を見つめていたのは、君が本当の気持ちをわかってくれるまで待つと決めたから。
でも言葉が出ちゃったよ。結局余裕のない自分が情けない。

「なまえくん、俺わかってるからね!そんなことしたって好きなのは変わんないから!」

その言葉に沖田隊長が手をひらひらとさせる。別にアンタの返事はいらないんですけど。
なまえくんの心は少しずつ溶けてきただろうか。
その答えが分かるのはもう少しだけ先のことだった。

 
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はじめ