「おうおう芹沢、昨日はどうだったんだ?」
「あー……その……みょうじくんが……」
「なーに恥ずかしがってんだよ」
「っ……あの……好きって、言われました!」
「は?」

ついにみょうじは一線を超えたらしい。いや何かしら発展するだろうとは考えてたぞ。でもはぐれないように手を繋いじゃったとか、屋台の飯をあーんしちゃったとかその程度のもんだろうと。突然部下がリア充になってた時の気持ちわかるか?俺より先にだぞ?いかん、ここは素直に喜ぶべきだよな。

「あー……付き合ってるのか」
「えっまさか男ですよ?もしかして俺が知らないだけで男同士って普通なんですか?」
「まあ、そこそこ」

俺は別に偏見がある訳では無い。男同士は変だと教えるものでもないし、本人たちがよければいいというスタンスだ。芹沢は好きって言われたことを否定してる様子はないが、知識的にも答えに悩んでいたのだろう。好き=付き合うに至ってなくてもおかしくない。

「男同士もあるのか……なら俺もみょうじくんのこと好きかも」
「は?」
「俺なんかのこと好きって言ってくれた子、はじめてだし。うん、すごいな。社会復帰した途端に恋人まで出来てしまった……」
「芹沢よ、好きと言われたからと言って、そのまま好きになるのは違うぞ」

コイツはまだ恋愛感情を分かっていないのではないか。敬う気持ちはわかっているだろうが、あまり誰が好きとかそういった感情を聞いたことがない。下世話な話をしたことがないから単純に俺が知らんだけかもしれんが。

「お前みょうじのどこが好きなんだ。言ってみろ」
「………」
「言えないってことはまだ分からないってことだ。直ぐに答えを出す必要もないだろう」

きっとこのまま進めればみょうじは間違いなく傷つくだろう。芹沢がちゃんと考えた結果であれば、どういった結末であろうと納得できるかもしれない。まぁ出かける回数でも増やして、少しづつ答えを出せばいい。

「たしかにそうですね。もっと知るところから始めてみます!」

知りたいと思ってる時点で脈アリだな。良かったな、みょうじ。



それから数週間が経った。いつもならみょうじから予約が入る頃だが音沙汰がない。てっきりこないだの夏祭りでプライベートな連絡先を教えてたから、そっちでやり取りしてんのかと思っていたが。

「最近みょうじくんからの予約ありませんね」
「なんだ、お前たち連絡とってないのか」
「夏祭りの後お礼は送ったんですが、それっきりで」

こりゃあ完全に引きずってんな。このまま来ないなんてことも充分ありえるだろう。そうなれば常連客が減ってしまう。営業メールでも送るか?でもなぁ、もうプライベートな内容だし悩ましいぞ。

「こういうとき、なんて連絡するのが良いんでしょう」
「正解なんてねえよ。お前が思ったまま伝えればいい」
「思ったまま……わかりました。俺連絡してみます!」

芹沢は時折ぶつぶつ独り言を言って悩みながら、携帯を握りしめてウンウンと唸っていた。今日暇でよかったな。しばらく様子を見ていれば、入力しては消してを繰り返しているようだった。こういう時は甘いもんでも食って……っと、戸棚に何もねえ!みょうじがつい買ってきてくれるから忘れていた。早く帰ってきてくれみょうじ。


***


芹沢さんから連絡がきた。簡潔な内容を送る印象しかなかったから、人生で見たことの無いくらいの長文に驚いた。みょうじくん元気ですか?俺は元気ですって。それだけで心があたたくなるのを感じたものの、体を気遣う内容から数行後の本題に身構えた。みょうじくんのことを好きかまだわからない、とストレートな言葉に芹沢さんらしさが出ていた。あんなこと言ってしまった手前、もう会わせる顔がない。でも「会えないと寂しいと思った」って言葉に期待してしまう。

どうやら霊幻先生にも相談したそうだ。先生も顔を見せないことを寂しがっていて、ついに戸棚のお菓子が無くなったことを嘆いていたらしい。いつも僕がお菓子を買っていくから、それが日常になっていたんだろうか。あとは一度だけ会った影山くんからもメッセージが添えられていた。中学生らしく「また来て欲しいです」という言葉に胸がいたむ。

芹沢さんと気まずくしてしまってから僕には解決策が見つからなくて、このままフェードアウトしようかと思っていた。でも霊幻先生や影山くんまで心配してくれている。僕を認めてくれる居場所ができたように思えて、それがあまりにも嬉しい。この好きが叶わなくても、この場所が好きであればいいのではないか。僕の答えが変わった瞬間だった。