痕の理由


「おいなまえ、何時だと思ってんでぃ」

総悟くんの声で目覚める朝。
あれ僕何してたんだっけ。なんだか疲れも抜けてない。ねむいなぁ。

「寝ぼけてねぇで起きな。もうすぐ朝礼はじまんぞ」
「っもうそんな時間?!うわぁ朝飯食いっぱぐれた…すぐ着替えないと……」

昨日あんまり眠れなかったしちょっとだけ、なんてそのまま布団に倒れこんでしまったのがいけなかった。
というのも、今朝自分の部屋にもどると布団が置かれていた。多分僕が山崎さんのところで休んでいる間に終兄さんが持ってきてくれたみたいだった。
腕を組んで僕を焦らせる総悟くんを横目に、隊服を取り出して着替える。先に行っててもいいのにこういうとこ優しいんだよね。

「昨日はお楽しみだったんで?」
「なにが?」
「ここ、ついてんぞ」

着流しを脱ぎ捨てた途端、僕の首元をつぅーっとなぞるから体がはねてしまう。
それを見て総悟くんはケタケタ笑っているけど笑い事じゃないよ!

「変な触り方するのやめてよ!虫刺されとかだよきっと」
「へぇ、どうだかなぁ」
「何もしてないってば。もう変なこと言ってないで早く行こう」

総悟くんには言えないからひみつにしておく、昨日の夜のこと。
兄さんのことは嫌いになんてなってない。あんなことされたのに自分でもよくわかんないけど。
でも恥ずかしくて顔は合わせられないかも。もし廊下とかで会ってしまったらダッシュで逃げる自信がある。特に厠は気を付けなきゃな。

でも僕の首についてるキスマークって兄さん?そんなところ吸われてない気がする。
まさか山崎さんはありえないだろうし、虫刺されなのかな。
疑問が残りつつもギリギリ間に合った朝礼に気持ちを切り替えて、今日もお仕事頑張ります!


***

待ちに待ったお昼の時間になった。
朝ご飯を抜かしてしまった時に限って急ぎの書類とか事件とかが入って来て、軽くつまむ隙も無くお腹を空かせてしまって大変だった。
でもようやく昼飯にありつけて手元のトレーから食欲のそそるにおいがしてくれば僕の悪いことも吹き飛ばしていく。おいしいもの食べれば元気になるよね!
どの席に座ろうか見渡せばそこにはピンッときた顔。あっちも気づいてくれたようでそのまま席へ向かった。

「山崎さん、ここいいですか?」
「もちろんだよ。昨日はちゃんと眠れた?」
「ちょっとだけ寝不足です。部屋戻ってからも二度寝しちゃって」
「あー、時間遅かったもんね。今夜はゆっくり寝なね」

山崎さんのやさしさが心地よくって嬉しくなる。近いうちにちゃんとお礼しないとなぁ。
そう思っていると僕の隣にまたひとり、人が増えた。

「あ、原田さん、お疲れ様です」
「おう、お疲れ。おまえら何の話してんだ?」
「なまえくんが寝不足って話だよ」
「なんだなまえついに童貞卒業か?夜遊びもほどほどにしとけよ」

原田さんの言葉にびっくりして、違うと訂正してもガハハと笑われてしまうだけだ。

「そこ何か赤くなってるし?俺の言ったこと案外図星なんじゃねぇの」
「これは…っ、今朝起きたら赤くなってたんです!虫刺されですよ!」
「どう見てもキスマークだろ。なぁザキ」
「本当、そうだったりしてね」

僕に虫刺されがあるってことはだよ、同じ布団で寝てた山崎さんだってあるかもしれないのに。
こんなこと言ったら原田さんがもっとうるさくなりそうだから黙っておくけど、違うってわかってるのに笑って流す山崎さんが恨めしい。
せっかくのお昼休憩だというのに、僕はからかわれながら時間を過ごしたのだった。

 

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はじめ