少し変わった日常


あれから総悟くんからのちょっかいが増えたのは気のせいじゃないと思う。
いつも副長がされているいたずらを考えれば、僕なんて比較的些細なものばかりだけど。
渡されたおせんべいが激辛なのに気づかないで食べて泣かされたり、カブト虫のサド丸が僕のおしりにくっついてたり、今日なんか朝起きたらいつのまにか布団で一緒に寝てたり。あれれ?あんまり些細じゃなかったかも。
総悟くん、どうしちゃったのかな。



今日こそ何事もなく終わりますように!と祈ったところで、今週は一番隊がトイレ掃除という爆弾案件を抱えていた。
案の定ブラシでごしごし色んなところを擦りまくる総悟くんに、今回も清蔵さんのほくろは無念に流されていったし、その巻き添えで僕まで変なとこを擦られて、びっくりした拍子に蛇口から勢いよく吹いた水をくらってしまった。

「なまえも綺麗になりやしたねィ」
「もう総悟くんのせいでびしょびしょだよ!」
「早く脱がねぇと風邪引いちまうぜ。手伝ってやろうか」

その手が僕の隊服に伸びた瞬間、通りかかった副長が声を上げた。

「なんだこの水浸しは!お前らちゃんと掃除してんのか!」
「土方さんこそ厠は禁煙ですぜ。俺が火消してやらァ」
「お前それ汚ねえだろうが!」

あ、副長にはしっかり使用済の水かけようとしてる…!
苛立った様子の総悟くんはバケツの水を飛ばしながら、厠から逃げる副長を追って出ていってしまった。
もちろん手にはトイレブラシを持っていたから、あれでごしごししてやるつもりなんだろう。
残されたびちゃびちゃに濡れた厠に隊士達とため息をこぼしながら、さらに増えた仕事をこなすため手を動かし始める。
とはいえこのまま仕事をする訳にもいかないから、一旦着替えるために自室に急いだ。


***

隊服はもちろん中のシャツも下着も靴下も、なんなら頭も水滴が滴るほど濡れていた。
この気持ち悪い水の重さをどうにかしたくて先に下着以外を脱いでしまう。
そしていざ着替えようとタンスを開けたら、そこにはぽっかりと空間が生まれていて頭が追い付かなかった。

僕ここに下着いれてたよね…?
あれ?下着だけなんでないんだろう。昨日の夜はあったはずなのに…

その時わかりやすい答えが頭の中でひらめく。
もしかして今朝総悟くんが一緒に寝てたのってこのため?だから水浸しにしてきたの?いたずらがここまで計算されてたなんてどうしよう。
これ絶対ノーパンで勤務させようとしてる。女の子じゃあるまいし僕がやっても誰も得しないよ?!
ああもうどこかに新しい下着って備品でないのかな。でももらいに行くまではこのまま水浸しの履いてるしかないし、もし備品が無かったらそれこそ履けないまま…、僕にはどっちにしろ地獄の選択肢しか待ってないじゃないか。助けて神様!

「何この廊下びしょぬれなんだけど、っうわぁああああ!」

突然聞こえてきた声にすぐさま襖を開けると、目を丸くしてこちらを見ている人。
このタイミングで通りがかってくれるなんて運命だ。神様はここに居た。泣きそうになるのをこらえながら、絶対に逃がさないように両手をつかむ。
そのまま自室へ招くと、僕の今の姿に目を泳がしているけどそりゃそうだ。こんな下着一枚の奴がいたら嫌に決まってる。

「お願いがあるんです」
「え、なに?なまえくん何で下着だけなの。どういうこと?」
「こんなの、おかしいってわかってるんですけど…でも僕…」

ごくりと聞こえてきた喉の音に、恥ずかしくなって顔が熱くなっていくのがわかる。
それでもごめんなさい。どうしてもお願いがあるんです。つかんだ手をぎゅっと握ってその目を合わせた。

「僕に下着貸して下さい、山崎さん」
「………へ?」

僕の神様は山崎さんだったようです。


***

「お、ノーパン野郎」
「ちゃんと履いてるし!ねぇ僕の下着どこにやったの」
「さぁな」

何食わぬ顔で部屋に入ってきた総悟くんに文句をぶつけても、いつも通りの澄ました顔をしている。
しかもちょうど着替え終わったところだなんて絶対に確認しにきたところでしょう。ばっちりすぎるタイミングが悔しいくらい。

「山崎さんがいなかったら今頃どうなってたことか」
「あ?ザキだぁ?」
「総悟くんと違ってやさしいから助けてくれたの」

その瞬間、思いっきり引き寄せられて総悟くんの腕の中にすっぽりと納まってしまう。
どうしてここにいるのかわからなくて見上げて様子を伺うと同時に嫌な予感がした。この勘は大体当たる。これ以上何かされる前に逃げなくては。
なのに僕よりも先に動き出した手によって阻まれてしまった。
それは僕のおしりを何度もなぞり、確かめるようにぐにぐにと形を変えて弄んでくる。

「ちょ、なに…!どこ触ってっ…」
「本当に履いてるか確認してるんでさ」
「っん、だから…山崎さんに貸してもらって…っ、ひっ!」
「悪い子にはお仕置きだな」

まるでその感情を表すようにおしりを叩かれた。これは完全に怒っている。いたずらが失敗したからってこんなこと…
離れようとすると僕の肩を抱く手に力が入り、呟かれた言葉は僕から選択肢を奪った。逃げたらもっとひどくする、と。
やめてと言う度に増していく熱い痛みに、必死に目をつむって耐えるけれど体はびくりと反応して声が漏れてしまう。

「やらしい声出てんぞ」
「ちが、う…っやらしくなんか、ひぅっ」
「お前は俺に遊ばれてりゃいいんだよ」
「も、わかったからっ…うぅ、叩くのやだ、許してよぉ…」

涙を浮かべる僕を見た総悟くんは機嫌が直ったようで少し笑っていた。
その表情にほっと安心したのも束の間、今度は僕に顔を寄せると首に思い切り吸い付かれる。
それは一度で終わりじゃない、何度も場所を変えてはぴりりとした痛みが襲ってくる。

「逃げねぇのか」
「だって、もっとひどくするって…」
「よくわかってるねェ」

あの言葉が邪魔をしてその場から動けないのをいいことに、好き勝手されてまるでおもちゃになってしまったようだ。
いつのまにか開かれた隊服が与えた自由は僕にとって困るものばかりで、肌に当てられた歯に体を震わせてもおかまいなしだ。

「噛むのは、や…っ!いた…いっ」
「嫌いじゃねぇくせに……おい、仕事もどんぞ」

どこかで僕たちを呼ぶ声がきこえて、総悟くんは僕を置いてさっさと立ち去ってしまった。
そうだ、仕事中だったんだ。まずい。まだぽわぽわした頭でできるだけ急いで着崩れた隊服を直そうと鏡に向かうと、思っていたよりも多く残された痕が目に入る。

僕には残された痕の意味はわからない。
どうしてこんなことするんだろう。僕が何かしてしまったんだろうか。
もしかしてこないだ首にあった痕も、総悟くんがつけたのかな。

 

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はじめ