紅月影畢之序
観月紅、天の星が如く主上の宝なるは花めける舞奉じ給ふ。主上へ蒼花弁奉ず雨降らさむとて、神無月朔日、夜畢の字、影月の位を賜りけり。則ち屋敷、観月邸設け家長となり俗名紅壱とし給ひけり。新月如き御邸は姿無く人鬼見ゆれど、主上のみ御入り許され給ふて、前栽の花ゞ、松、満たる曼珠沙華を以て御仁隠しけり。上弦下弦をして月花宮と云はしめ、夜畢が命、主上といと近ふなり給ひける。
『影月舞伝』 巻一より序文 現代語訳
観月紅は天に輝く星のように、主上の宝のような人物であり、美しい舞を捧げなさる。主上へ青い花びらを捧げる雨をふらすだろうと、神無月朔日に夜畢という名前と、影月という位を賜りなさった。その後に屋敷をこしらえ、家主となると、通り名を紅壱と変えなさった。新月のように暗いお屋敷にはいつも人がいないように、人間にも鬼にも見えていたが、主上だけが敷地へお入りなさることをお許しになられて、生垣の花々や、松の木、満開にさいた彼岸花で隠されていらっしゃった。十二鬼月の上弦、下弦の鬼たちより月花の宮と呼ばれ、夜畢の命は主上と同じほどに近しくなられた。
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