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近くのベンチに座って彼女、もとい青子ちゃんの話を聞いていると私の勘が正しかったことが明らかになった。
彼女は中森青子。江古田高校二年生。父親は警視庁捜査二課のキッド専属警部。
この情報だけでも儲けものだというのに彼女の幼馴染は黒羽快斗。しかも彼はあの黒羽盗一の息子だそうな。
黒羽盗一というのは世界的に有名なマジシャンで八年前にショーの事故で亡くなってしまった。しかし実のところ彼は生きていて再び怪盗キッドとして現れたのではないかと私は考えていたがどうやらそうではないらしい。息子がいたとは……。
「天音ちゃんも折角だし青子達と一緒に見物しない?」
話が落ち着いた頃、彼女は真摯に聞いていた私を「いい人」と判断したらしく屈託のない笑顔でそう持ち掛けてきた。
騙しているのはこちらだけど、こんな簡単に騙されて大丈夫なのかと逆に心配になる。蘭より警戒心なさそう。まあ彼女の騎士さまが影できっちりガードしているから要らぬ心配だろうけど。じゃなきゃこんなにも真っ直ぐな目をしているはずがない。
「うーん…人ゴミ苦手だから遠くから見てるよ」
眉を下げて答えると青子ちゃんがあまりにも落ち込んでしまう。誘いに乗ってあげたくなったがぐっと推し止まった。私も隣町まで来たからにはやることがある。
「ただキッドが来る前に青子ちゃんと一緒に来るっていうお友達を紹介してくれると嬉しいな」
にこりと笑う。青子ちゃんは分かりやすく表情が明るくなった。例えて言うなら子犬がパタパタと一心にしっぽを振ってるみたい。
「うん!たぶん恵子もきっと天音ちゃんと友達になりたいと思う!天音ちゃん美人だし!」
……ははは、こういうのって本人を前にしていう事じゃないと思うんだけど。と、言う事も出来ず、ただ愛想笑いを浮かべた。
一端家に帰るという青子ちゃんと別れて時間がくるまで時計台の周りを散策する。目をこらして時計台を見ると時計針の根元に何か細工してあるのが見えた。ただ遠すぎて何と書いてあるのかは分からない。加えて工事用の足場に発煙筒がいくつか発見した。
次第に辺りが暗くなるにつれ人も集まり始めた。時計の針はそろそろ11時を指そうとしている。さっきのベンチに戻ると青子ちゃんとその友達がもう来ていた。
声をかけると案の定、彼女は途端に嬉しそうに大きく手を振る。ぶんぶんと振られたしっぽと垂れた耳が見えるようだ。
友達の名は桃井恵子。クラスメートで青子と仲が良いらしい。大きな眼鏡とツインテールが相余って彼女も子犬に見えてくる。
三人で連絡を交換し終え、二人はもっと前で観戦するというので笑顔で送り出した。恵子ちゃんはともかく青子ちゃんは私にマークされているとは露程も思ってないだろう。青子ちゃんと時計台がバランスよく見える位置に移動する。
地上はパトカー、空にはヘリコプターが次々と駆け付けた。大勢の観客もキッドを待ち望むかのようにキッドを連呼している。これが噂のキッドコールか。
対して青子ちゃんは「キッド反対」と書かれた画用紙を掲げ「キッド来るな!お父さんがんばれ!」と叫んでいた。
結論を言うと怪盗キッドのショーはほぼ新一に邪魔された。まあ案の定といったところか。ヘリコプターと聞いてこうなることは分かっていた。
新一を乗せたヘリコプターが去って行ったのを確認してから青子ちゃんを見る。彼女は恵子ちゃんではない別の人物と話していた。
青子ちゃんに一輪のバラを差し出していること、顔回りや腕が少し汚れていることからして彼は……。
「天音ちゃん!こんなところにいたんだ!」
声をかけてきたのは恵子ちゃんだった。「げ」と思った時にはもう遅い。
「青子―!天音ちゃんまだいたよー!」
呼ばれた彼女は彼に目もくれず子犬のように駆け寄って来た。このままだとまずいとわかっていてもこの状態から抜け出せる目途は立たない。腹を括るしかないと表情を柔らかくした。
「よかった!天音ちゃんにお別れのあいさつし損ねちゃったなーって青子たち話してたの!」
「別にそんなの気にしなくていいのに」
「まあ私たちがまだ話したかったっていうのもあるんだけどね!」
二人の笑顔に表情筋が引き攣りそうになる。どうして会ったばかりの人間に絶対的な信頼をおけるんだあんたたちは……。
「そうだ!快斗にも紹介するね!彼女は椎名天音ちゃん!青子たちと同い年で隣町からキッド見に来たんだって!」
彼は瞬きを一つすると破顔させ手を目の前に突き出した。握手かと思いきやクルリと手が返されると一粒のキャンディーが現れる。
「黒羽快斗ってんだ!よろしくな!」
差し出されたイチゴキャンディーを受け取りながら答えた。
「こちらこそよろしく」
あんたの正体はどうでもいい。ただあの時計台の暗号からするに彼は暗号の作り手としては興味深い。だから…あの高校生探偵様や警察から今後も上手く逃げて楽しませてね、怪盗キッドさん。
作っていた表情から一転ニヤリと笑い、彼の手を取って握手した。
「ルオンくん、何か良い事あったの?」
お手洗いから戻って来た文乃ちゃんが丸い目をさらに丸くさせ問うてきた。
「うん、さっき知り合いに会ってね」
そう言ったと同時にマジックショー再開のブザーが鳴り響いた。