ユートピア日記


「ジンとウォッカ…ねえ…」

ついさっき、彼から切羽詰った電話がかかってきた。京都に行く道中、あの黒づくめのやつらと遭遇したらしい。

彼が新幹線内でその2人を探った結果、分かったのは奴らのコードネームだけ。この結果にあの高校生探偵と自他共に豪語していた彼としては納得いくものではなかったらしく、電話の向こうで大層悔しそうにしていた。

ゴロリと寝返りをうつ。なかなか寝付けないのは何故か。このままだと一向に寝られそうにない。仕方なく博士に了承を得て国際電話をかけた。

今、日本が25時という事は向こうは12時。事件に駆り出されていなければお昼休憩を取ってる頃だ。

『こちらキャメル』

聞きなれた英語が耳になじんだ。

「アンディ久しぶり」
『天音!?やはり君だったか!日本から電話がかかって来るなんておかしいと思ったんだ』
「ごめん、いつもの番号じゃなくて。これからはこの番号だからよろしく」

他愛もないやり取りが心に妙な安心感をもたらす。

彼は私がアメリカにいた頃、一番一緒に遊んでくれた。いじり甲斐があってしょっちゅうイタズラに掛かってくれる人。

次第に電話の向こうが騒がしくなってきた。どうやら全員お揃いらしい。「声が聞きたい」と頼むと、皆かわるがわる電話に出てくれた。

『元気でやっているかね?』

そう尋ねてきたのはジム。このチームのボスで、何故かしょっちゅう物を買ってくれるカモ…じゃなかった、親切な人だ。

『こっちがこの時間ってことは…天音!あなた!夜更かししてるわね!夜更かしは美容の大敵って何度言わせるのよ!』

このやかましいのはジョディ。アメリカにいた時にもずいぶんとお節介を焼いてくれた。

『あ!シュウが戻って来たわ!』
「いや、それは要らない。アンディに戻して今すぐに」
『……アンディじゃなくて悪かったな』

不機嫌そうな声に気分は急降下。私にとって彼はこの世で一番苦手な人物だ。

「お元気そうでなにより」
『ほー…生意気な口をきくようになったもんだ、あのキティが』

聞こえた単語に顔をしかめる。だからこいつはイヤなんだ。いつまでもいつまでもキティと呼ぶ。しかもそれが私の勘に触っているのが分かってやっているのだからタチが悪い。

「お金がもったいないからもう切る。他の皆によろしく」

ガチャンと受話器を置いた。あー不愉快。その後、ぐっすり眠れたのはイライラし過ぎて疲れたからに違いない。

▽▲▽


次の日、学校に着くや否や開人君に突然紙を差し出された。

「ルオン!お前にしか頼めないんだ!頼む!」
「「頼む!」」

彼と並んで頭を下げているのは彼とよくつるんでいる佐藤くんと橋本くん。
何事かと紙を受け取ると簡単な暗号が書かれていた。たぬきの絵と『だいたせいかたいきたみはたてたんさたいだ』とある。

「大正解、君は天才だ」
「「「へ?」」」
「それが答えだよ」

ようやく理解したのか三人は大喜びし始めた。これが解けると仮面ヤイバ―の人形がもらえるんだとか。

未だに喜んでいる彼らを眺めながら頬杖をつく。……平和は身近にあるんだけどなあ。

▽▲▽


夜ご飯の買い出しの帰り。博士と並んで歩いていると工藤邸の前に人影が見えた。もうあいつらに嗅ぎつかれたのかと冷や汗が背中を伝う。

しかしよく見れば馴染みの顔だった。博士も同じように緊張が解けたのかそろって息を吐く。

「お久しぶりですな!工藤ご夫妻!」

解放感からか、博士が声をかけてしまった。おいおい、どう言い訳するつもりなんだ?

「お久しぶりです、阿笠博士!」
「…あら?そちらのお子さんは?」

有希子さんの言葉に博士の肩が上がった。やっぱり考えなしか。

頭を巡らせるものの、この元大女優と人気推理小説家の前ではすべて無駄だと悟る。家に招き入れて全てを語った。

最初は半信半疑のご夫妻だったけど、あっという間に順応した。逆にこっちが拍子抜けする。呑み込みが早すぎやしませんか。

「やーん!かわいい!この時期の天音ちゃんは見たことないからすごくラッキーね!」

有希子さんに抱きかかえられてしまって抵抗するすべもない。ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

▽▲▽


24時間後。
私たちの前にはすっかりブスくれた彼がいた。無理もない。実の両親や信頼のおいていた博士に騙されたんだから。かくいう私も片棒担がされた。

対して優作さんはニコニコと楽しそうだ。おそらく彼は息子と知恵比べをして勝ったのが嬉しかったのだろう。

「殺されるかと思ったし、天音は殺されたのかと思ったんだぞ…」
「おーそーかそーか!じゃあこんな危ない国はさっさと引き上げて父さんたちとのんびり暮らそうか!」
「もちろん天音ちゃんも一緒にね!」
「「え?」」

工藤ご夫妻の言葉に耳を疑う。そんな事私も初耳だ。事態が飲み込めず瞬きを繰り返した。

「実はね天音ちゃん、あなたたちがどんなに危険な立場にいるか分かってもらうためにこんな事をやったのよ!」
「だからワシもこの芝居に協力したんじゃよ」
「もし俺たちが例の男たちだったら今ごろ天音ちゃんを守れずお前はあの世行きだ」

いや、彼の守るべき姫君は蘭です。一応心の中で突っ込んでおく。

話し合いの結果、新一の主張が通り今まで通り過ごす事になった。蘭が日本にいるかぎり彼はここを離れることはないだろう。

こうして工藤ご夫妻の来日劇は幕を閉じたのだった。

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