はかれる水彩度
いつもより大分遅い時刻に欠伸をしながらリビングに降りた。今日が日曜日なのを良い事に昨夜根詰めすぎてこの有様。小さい体のせいかまだまだ眠気は収まりそうにない。
博士は研究室に籠ってまた何か作っている。小さくなってから博士は色んな道具を発明してくれた。
ちなみに法的にまずいと思っているのは新一が貰っていた時計型麻酔銃。まあ蘭のお父さんにしか使わないらしいから大丈夫だろうけど。
あとは犯人追跡メガネ。これには他にも機能が搭載されていてフレームの右先には盗聴器、左先には受信機がついている。
他にも私の捕縛特化型ヨーヨーを見て「自分も捕縛できる道具が欲しい」と強請った彼に博士は伸縮サスペンダーという物もあげていた。甘いなあと思ったけど、博士も博士で喜々として取り組んでいるようなのでもう何も言わない。
「ふぁあ…お、天音君起きてきてたんじゃな」
「まあね。で、博士、今度は何作ってんの?」
よくぞ聞いてくれたとばかりに博士はテーブルに何かを広げた。
「探偵バッジじゃ!」
博士は自信満々にそう言った。
博士曰く半径20kmまで使える超小型トランシーバーと発信機までついているんだとか。デザインはホームズのシルエットに“Detective Boys”とあしらわれている。意外とセンスが良い。
「これも発注者は新一?」
「いや、実は新一君が小学校で仲良くしている三人組に頼まれたそうなんじゃ」
「へー…」
小学生にパシリにされる高校生探偵なんて滑稽すぎる。一体どんな弱みを握られているのやら。
新一の話によく登場する三人組は“Detective Boys”の名に恥じないほどアクティブらしく、最近はイタリアの強盗団を捕まえたらしい。たまげたもんだ。
つくづく思うけど私の在籍しているA組はそういうのがいなくてよかった。
「ほれ、天音君の分もあるぞ!」
差し出されたそれを礼を言って受け取る。とりあえずポケットに突っ込んだ。今後これの出番はきっとないだろう。
「そういえば博士はもう昼ご飯食べた?」
「まだじゃよ。あ!そうじゃ!久しぶりにコロンボはどうじゃ?特性ミートソースが恋しくてのう」
「いいね、私もあそこのサンドイッチはお気に入りなんだ」
おやつ時。私が公園でローラースケートの試運転をしていると、公衆トイレに黄色いテープが張られているのが目に入った。
何か事件だろうか。がんばれ日本警察、高校生探偵なんかに負けるな。心の中でエールを送っていると知った顔が見えた。
「あ、こないだの刑事さん」
「あれ…君はこないだのひったくり犯の時の…」
ベンチに腰掛けていたのは千葉刑事だった。トイレ前には警備している警官が一人。周りを見ても彼の上司である目暮警部は見当たらなかった。
「頭抱えてどうしたの?」
「あ、えーと…その…」
普段なら教えてくれないだろうけどこうして悩んでいるという事はよほど困っているらしい。隙をついて彼の手に握られていた写真を抜き取った。
「あ!ちょっと!」
取り返されないよう、すかさずローラースケートで走り出す。写真に写っていたのは個室トイレの壁だった。その壁には『Re: Mec Worse Lie!!』とスプレーで記されている。
『Mec』はフランス語、それ以外は英語。直訳すると『男へ返信:より悪い嘘だ!!』になる。でもそれじゃあ意味が通じない。
これは暗号だ。頭をフル回転させて暗号解読に取り掛かった。
方向転換して私を追っていた千葉刑事の目の前で止まる。
「この暗号解けたよ」
「……ええっっ!?」
息を乱しながら驚く彼にニヤリと笑って見せる。こんなの私にかかれば朝飯前だっての。
「どうやってこの暗号を解いたんだい?」
「刑事さん、シーザー暗号とレールフェンス暗号って聞いたことない?」
「聞いたことはあるけど…もしや…」
「そう、その二つを使えばこの暗号は簡単に解けるんだよ。まずアルファベットだけ並べると“REMECWORSELIE”になる。これらを4つ前のアルファベットに置き換えると“NAIAYSKNOAHEA”、並べ替えると“SEKAI NO HANAYA”。世界の花屋、つまりオランダってこと」
こんな子供が解けると思ってなかったんだろう。千葉刑事はぽかんと私を見た。
「すごい…君は一体…」
「僕の名前はルオン。こういうのって大人より子供の方が得意なんだよ!だからまた暗号があったら教えてね刑事さん!」
満面の笑顔を浮かべる。これは作ったわけではなく結構本心から出た顔だ。暗号は三度の飯より好きなもんでね。
後日、千葉刑事から事件の全貌を聞いた。あの暗号は最近報道されていた美少女誘拐殺人事件の犯人グループが残した物だったらしく、解けたおかげで彼らがオランダへ高跳びする前に空港で逮捕できたそうだ。
千葉刑事はお礼にと仮面ヤイバ―のフィギアをくれた。一応パソコンの横に飾ってみたものの全く部屋に馴染みそうにない。
いらないって言ったんだけどなあ……。