嘘つきは戦いの始まり


必要な荷物をスーツケースにまとめて運び出す。博士には事情を話して少し手伝ってもらった。

パスポート保険証類、最低限の洋服。そして少し埃を被ってる平たい丸缶。それらを部屋に広げる。

この部屋は博士から貰った物置と化した二階の一室。好きに使っていいらしい。居候だから我儘言えないだろうと思っていたのに。

夜ご飯は出前を取った。これからはこうして博士とご飯を共にすることが多くなるのだろう。誰かとご飯を食べるなんて久しぶりすぎて少し不思議な感覚だ。

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朝。目覚めは良好。

家の中は静かだ。博士はまだ寝ているのだろう。時計は午前8時を指している。癖だなこれは。

身支度を整えてタクシー会社に連絡する。できれば昨日の広田さんにまたお願いしたい。そのウマを伝えると広田さんが迎えに来てくれることになった。他の人だったら子供を乗せてくれないし、一々説明するのも面倒。今日は何も聞かずに彼は乗せてくれた。

「昨日ぶりだね。またトロピカルランドに行くのかい?」
「うん。忘れ物しちゃったんだ」
「それは大変だ」
「あ、昨日は傘ありがとうございました」
「おじさんこそ君にありがとうって言いたくてね、貰ってくれてありがとう」

テンポよく話をしていたらあっという間に目的地についた。忘れ物を取って戻ってくるまで待っててくれるって言うんだからこの人どんだけ良い人なんだ。懸念事項としてあげるならば未だすり減ったままのタイヤだけだ。

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「本当にこれでよかったのかのう…」
「いいのいいの」

買い物で得た戦利品を広げてみる。服や靴、カバンに下着類、その他もろもろ。ぜーんぶ男物。

博士はそれらを見て再び嘆いた。

まあいいじゃないか。タクシー運転手と蘭から得たヒントだ。体が小さいなら男と偽るのも容易い。

「いつかボロが出てばれたらどうすんじゃ」
「そんなの得意の嘘と出まかせでなんとかするよ。それに敵の目とか蘭の目を欺くには一番だって博士も賛同してくれたじゃん」
「……新一になんて言えばいいんじゃ…」

この調子だと、今日一日嘆き続けてそうだ。付き合いきれず自室に戻った。

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しばらくして。下に降りると博士がリビングにあるパソコンで調べものをしていた。後ろから覗き込んでみると、どうやら幼児化について調べている。

「やっぱないかー」
「うおっ!?!?天音くんかね!吃驚させんどくれ……」
「ごめんごめん」
「心臓に悪いわい……」

博士は区切りをつけたのかパソコンから離れ、ソファに座った。私は紅茶を入れるためキッチンに立つ。今日はストロベリーティーにしよう。

「今、新一と天音くんに向けて発明品を作ってるんじゃ!楽しみにしといてくれ!」
「おーそれはうれしいね、ありがとう。でも新一と同じデザインはやだよ?」
「天音くんならそう言うと思ってちゃんと別々にしておるわい」
「さっすが博士」

どんな物を作っているのか聞いてみたかったけどこういう時に聞くのは野暮ってもんだ。完成まで静かに待つとしよう

その後、紅茶を飲みながら博士と話し合った。決まったことは3つ。

1つ目。私と新一は同じ小学校に通う事。理由は中身が高校生とはいえ見た目は完璧小学生。そんなのが昼間に町を歩いたら目立つこと間違いなしだ。手続きやランドセルのもろもろは博士がなんとかしてくれるらしい。ありがたや。

2つ目。昨日決めたけど元の家にはできるだけ入らない事。新聞とかも早急に止めなくてはならない。

ちなみに昨日まで着ていた子供服はフサエブランド。母が好きだったらしく誰かからの贈り物らしい。贈り主について覚えていることといったら私のことを『Princess』と呼んでいたくらいだ。当時はそれがとてつもなく嫌だった。

「夜ご飯どうするー?」
「天音くんの買い出しの時に一緒に夕飯の分も買ってくれば良かったのう」
「じゃあ出前にしよ」
「そうじゃのう」

不健康なのはわかってるけどニンゲン楽な方選ぶよね。元々料理はしないし。

博士の家の郵便受けにはタイミング良くピザの出前用チラシが入っていた。ついでに薄手の手袋をして新一と我が家の郵便受けを覗く。

新一の家は異常なし。いつも通りファンレターが沢山。放っておいたら溢れてきそうだ。住所ばれてていいのか天才高校生探偵よ。我が家も異常なし。

今日の仕事はこれにて終了。さーてと何のピザ頼もっかなあ。

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「できたぞー!」

その声は二階まで届いた。ご近所迷惑になってなければいいけど。
階段を降りていくと待ってましたと言わんばかりに博士が目を輝かせた。子供みたいで少し笑ってしまう。

「昨日言っていたのが遂に完成したんじゃ!」

博士は机の上に二つの機械を置いた。蝶ネクタイ型の物とリストバンド型の物。

「天音くんのはこれじゃ!その名もリストバンド型変声機!天音くんはバスケをやってるせいでリストバンドをよくしとるから思いついたんじゃよ!使い方はサイドにあるダイヤルを回すと声の質を調整できてどんな声でもバッチリ!きっと役にたつぞ!」

ためしにダイヤルを回してみたり声を通してみたり。意外とこれが面白い。

「あ、元の声ってこれくらい?」
「おお!そっくりじゃ」

小さくなる前と今じゃ結構声質が違う。これでやっと各方面に電話で連絡が出来るようになった。

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