鯛は遊んでも鯛


「おーい天音君!」

一階から博士の声が届いた。膨大なフロッピーディスクを金庫に入れてからパソコンの電源を落とす。

このフロッピーディスクは先日祖父からいただいた大事な大事な資料だ。
そして最近導入した、私の部屋の大部分を占めているパソコン三台。一台は博士のガラクタの寄せ集めで作った手作りパソコン。これは外部からの通信は完全にシャットアウトしてあり祖父からもらったデータ閲覧用のパソコンだ。
あとの二台はちゃんと購入した物。片方が何等かの理由で機能しなくなった場合に備えて余分に購入した。

階段を下りていくと博士が目を輝かせて待っていた。

「もしかしてこないだから作ってた発明品が完成した?」
「そうなんじゃ!見てくれ!」

博士の右手には赤いスニーカー、左手には黒いヨーヨー。一見、どちらも普通のスニーカーとヨーヨーに見える。

「スニーカーが新一君のでヨーヨーが天音君のじゃ」

差し出されたヨーヨーを受け取る。それは前にひったくり犯を捕まえる時に貸してもらったヨーヨーより倍以上重かった。ヨーヨーの真ん中には半月型のボタンが2つ並んで円を形成している。

「この前、天音君から聞いたひったくり犯の話で思いついたのがこれなんじゃ。名付けて“捕縛特化型ヨーヨー”じゃ!」
「ほうほう」
「ただのヨーヨーに見えるじゃろうが、この糸はどんなに力を加えても千切れない特殊な繊維でできているんじゃ!それに真ん中の縁が白いボタンを押すとこの糸が最大10Mまで延びるぞ!そしてこの糸に一度絡み疲れたらこの真っ黒いボタンを押さない限り逃れる事のできない優れものじゃ!」

確かに糸を引っ張っても切れそうな気配はないし、10Mも伸びるならこの重さにも頷ける。

さすが発明家。あんな世間話でこんな発明品を作ってしまえるものなのか。ガラクタが目立つが変声機のようにたまに凄い発明品も作れるらしい。

「じゃあ博士の発明品完成を祝って今日は出前でお寿司取ろうよ」
「おお!そりゃ名案じゃ!!」

博士は軽い足取りで出前寿司のチラシを取りに部屋の奥に向かって行った。

最近のもっぱらの悩みは出前が増えた事。私は子供だからまだ良いとして……博士は血圧やら体重は大丈夫なんだろうかと少し不安になった。

▽▲▽


「初めまして、江戸川ルオンです。どーぞよろしく。隣のクラスに同じ名字の子がいるので僕の事は下の名前で呼んでくれると嬉しいです」

子供たちの興味津々な目に晒されながら黒板の前で軽くお辞儀をした。パチパチパチと小さく拍手が起こる。

私は一年A組、コナンは一年B組。組が分かれたのは偶然だが、普通に考えたら転校生を同じクラスに二人も入れるのは考えにくい。そうなるとやっぱりクラスが分かれて仕方ないと思う。新一は納得してなかったみたいだけど。

「じゃあ早速一時間目は江戸川君と仲良くなるためにレクリエーションをやろうか!」

優しそうな担任の先生がそう言うと子供たちは「わぁ!!」と一気に湧いた。話はどんどん進み校庭で鬼ごっこをする事に。

子供っていうのはすぐ順応するせいかもう現時点で「ルオン―!こっちいこうぜ!」「あの鬼のやつ、足はえーから気をつけろよ!」などなど気軽に声をかけてくる。性別を男子としているからか、鬼ごっこの最中常に男子に囲まれていた。男子のノリが良く分からないため、愛想笑いを浮かべてなんとか乗り切る。

女子はというと「よろしく」と声をかけたら「キャー!」と色めき立ってしまった。なんだこれ。私の顔、そんなに男顔だっけなぁ。


レクリエーションが終わり、教室に戻って来ると今度は私の席をどこにするかで大合戦が勃発。転入生だろうと数か月もすればほぼ皆と変わらないのにね。黙って見守っていると先生発案でクラス皆、くじで席替えを行う事となった。

決まった席は一番後ろ。今日はついてるらしい。隣は女の子で前は男の子だった。

「やりい!後ろルオンじゃん!」
「えーっと…名前なんだっけ」
「杉浦開人!よろしくな!」
「杉浦君ね、こちらこそ」
「開人でいいって!」

ミニカーのTシャツを着た活発そうな少年はそう言ってニカッと笑って見せた。笑顔で返して今度はさっきから話したそうにしていたお隣さんを見る。

「文乃はね!九十九文乃っていうの!よろしくね!ルオン君って前はどこの小学校だったの?」
「ここからすごく遠いから九十九さんには分かんないかも」
「あー!杉浦君は名前で呼んでるのにどうして文乃だけ名字なの?」
「分かった分かった、文乃ちゃんね」

ハハハハ、男子のノリというか最近の小学生のノリって分かんない。乾いた笑いをするしかなかった。ただ他のクラスメートの女子みたくキャーキャー言わないためまだ話しやすい。

▽▲▽


学校が終わり、隣のクラスに顔を出してコナンを呼んでもらおうとしたが彼は今職員室にいるとのこと。初日から何をやらかしたのか。
聞くところによると体育の時間サッカーボールで木を倒してしまったらしい。たしかに三時間目の途中校庭が騒然としてたけどあれは新一のせいだったのか。

仕方なく一人で下校する。勿論私が待つわけもない。蘭じゃあるまいし。


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