火影のあり方


縁側で大刀の手入れを行なっていると、家の敷地内に家族以外の誰かの気配を感じた。おそらく客人だろう。
丁度、打粉をかけ終わり、油塗紙で丁寧に刀身に油を塗っていた時、母さんが私を呼ぶ声がした。
返事をして道具を片付ける。大刀を背中に担ぎ、今に向かった。

居間に顔を覗かせると母さんがお盆片手に振り返った。

「母さん、何か…」

そう言っている途中、信じられない人物が目に入り思わず体が硬直してしまう。

「レイー、戻ってこーい」
「っ!!」

父さんの声ではっと我に返った。目をこすって見るが目に写る映像は変わらない。白昼夢を見ているわけではないようだ。

「ほ、火影様っ!?」
「うむ、いかにもワシが火影じゃ」

楽しそうに笑う火影様を見て、私は気が遠くなるのを感じた。

▽▲▽


程よい日差しに包まれた縁側。パチリパチリと碁石と碁盤のぶつかる音が響く。普段は心地良い音も、今は緊張を高まらせる術しか持たない。

何をしているのかと言うと火影様と碁を打っている。何故こうなった。

カカシ先生の元に向かうのは夕方で良いと父さんに言われ(火影様のお相手を優先しろと言いたいのだと察した)、時間には余裕がある。

だからこうしてのんびりしていても問題はないのだが…いかんせんこの状況。母さんは食器の片付けで台所にいるし、父さんは中忍試験で忙しいらしく家を飛び出していった。つまり言いたいのは、火影様と二人っきりなのだ。

火影様はふと手を止めた。不思議に思い顔を上げると、視線が重なる。火影様は口元を和らげた。

「そう固くならんでも良い。むしろワシが勝手に邪魔したんじゃから、お前さんは堂々としておれ」
「す、すみません」
「…ふむ、少し話でもするかのう」
「……はい」

柔らかな日差しの下、縁側に火影様と並んで腰掛ける。私の手元には、今しがた母さんが運んできた番茶の湯気がまだ揺れている。手に馴染ませるようにして湯呑を回してみた。

「いつもこの家の庭はのどかじゃのう…」

火影様曰く彼は私が生まれる前からこの家にはちょくちょく遊びに来られていたんだとか。

「あの」

会話が途切れた時、私は思い切って口を開いた。今なら前々から思っていた事を聞ける、良いチャンスだ。

「火影様は…何故、火影になられたのですか?」

ザアっと庭の林が風に吹かれ、音をたてている。じっと火影様を見ると、火影様は朗らかに笑った。

「この里、全ての者たちを守るためじゃ」

この里すべての者たち。私はその言葉に時が止まったかのような衝撃を受けた。

「レイ、人生は一度きりじゃ。好きに生き、好きに死んでも構わん。ただし、大切な人を守る事だけはいかなる時も忘れてはならん!よいな?」
「…勿論です」

だからこの方が火影なのか。だから皆着いていくのか。心にストンと何かが落ちるのを感じる。
私もこの人に着いていきたい。漠然とそう思った。

▽▲▽


火影様と別れた後、カカシ先生と合流し木の葉の外れにある岩山に来た。サスケはというとまだ、治療が終わってないらしい。

「んじゃまあ、適当に始めるとするか」
「よろしくお願いします」

カカシ先生と二人っきりでこうして話すのも、修行をするのも、初めての事だ。教えられたことは全て吸収しようと気合を入れ直した。

「とりあえず、左腕の呪印、出してくれる?あ、別にセクハラとかじゃないよ?」

アセアセと言うカカシ先生。別に疑ってませんって。私は素直に左腕の呪印を晒した。

「キオさんから頼まれててね…ちょっと失礼するよ」

そう言って、カカシ先生は呪印に手をかざす。

「何を…?」
「呪印の効果を薄めようと思ってね。一応、暴走しないように残してはおくんだけど、今のままじゃ写輪眼出そうにも痛みで戦うどころじゃなくなっちゃうからでしょ?」
「…ありがとうございます」
「いいのいいの、レイちゃんは自分の事に集中してよ」

ニッコリと笑ったカカシ先生に僅かな既視感を覚えた。左腕にじんわりとした熱を感じながら、カカシ先生を見上げる。カカシ先生は口布で顔がほとんど隠れているものの、目元は優しかった。

「カカシ先生」
「ん?痛い?大丈夫?」
「痛くはないです。そうではなくて…以前お会いした事がありますか?」

一瞬カカシ先生は目を見開いたが、嬉しそうに目を細めた。


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