一抹の不安
私は今森の中を水無月一族の力を最大限に活用し、全速力で走っている。走り過ぎて耳が千切れそうだ。目指す先は木の葉の中忍試験本選会場。
今更ながらナルトとサクラが「カカシ先生は遅刻魔だ!」と言っていた意味を痛感する。
サスケとカカシ先生は何やら寄る場所があるらしく、そこに向かってから後で来る事になっている。
仕方ないとは思う。しかし脳裏に甦るのはカカシ先生のノンビリとした声。
「え?時間?まあ、大丈夫でしょ。ほら、レイちゃんが今から行けば10分もかからないだろうし、火影様に遅れるって伝えといてくれる?」
人をアテにすることもさながら、根本的に間違っていると思う。間に合わなくても報告さえしてればいいと言う訳ではなく、時間を守らなかった事が問題なのだ。その辺があの人は分かっていない。
逆立つ気分を宥めていると視界が開け、会場が見えてきた。
会場の屋根に降り、中の様子を伺う。人々が騒がしく怒鳴り散らしていた。怒鳴る内容はこの試験の目玉であるサスケがいないのはどういうことだ!というもの。
火影様のいる観覧席を見ると、木の葉の忍びから報告を受けていらっしゃるところだった。その隣には風影様もいる。
ふと風影様が大蛇丸に見えた。そんなことありえないはずなので私が疲れているだけだろう。
急いで火影様の目の前に移動した。彼の前に跪くと護衛の人たちからの殺気が向けられる。たじろぎそうになるのを耐えて姿勢を正した。
「うちはサスケは直に来ます。故にもうしばらくお待ち頂けないでしょうか。無礼な事を申しているのは重々承知です。ですが彼は必ず来ます」
その時ポンと頭に手を置かれ反射的に顔を上げる。そこには優しげに微笑んでいる火影様がいらっしゃった。
「よくぞ報告してくれた…分かった…お前さんの言葉を信じ、特別この試合を後回しにして待つ事にしよう…」
「ありがとうございます!」
火影様の横に控えていた木の葉の忍びが、試験官にサスケの試合を後回しにする事を伝えに行った。それを見届けてから自身の控え室に向かおうと頭を下げる。
「では…失礼致します」
歩き出した私の背後で風影様の声が聞こえた。
「木の葉は優秀な忍びが多い様で…羨ましい限りです…」
その時、ゾクリと寒気がしたので振り返ると風影様と目が合った。再び風影様に大蛇丸の影が見えたような気がしてしまい、早打つ心臓に気づかないフリをして一気に駆け出す。
「遅かったなァ…きっちり写輪眼の使い方、盗んで来れたか?」
控え室に向かう途中、煙管を吹かす父さんが廊下に佇んでいた。たかが一ヶ月顔を見なかっただけなのに懐かしく感じる。
「勿論だ」
「そーかい…そりゃ良かった、可愛い娘に旅させた甲斐があったもんだぜ」
歯を見せて笑う父さんに言いようのない気持ちが込み上げた。それを何とか表に出さないようにして歩き出す。
「…頑張れよ」
「はい!」
知らず知らずのうちに頬が緩んでいるのに気づかないふりをした。
控え室に着くと、丁度シカマルの出番だった。欄干に手を付き下を見ているシカマルの後ろ姿を見て、彼が少し苛立っているのを感じた。おそらく一つ前の試合が棄権でなくなり自分の出番が早まった事に対する苛立ちと、己ばかり試合が変更される苛立ちだろう。
「シカマル」
彼と同時にその場にいた人達も一斉に振り返った。
「レイ!?」
「レイちゃん!?」
驚きながらこちらに駆け寄ってくるナルトとシカマル。ナルトもいたのかと今気づいた。私の目にはシカマルしか捉えていなかったみたいだ。
「レイちゃん!オレ!絶対レイちゃんは来るって信じてたってばよ!…サスケは?」
「勿論、直に必ず来る」
そう言った途端、パアッとナルトの表情が明るくなる。分かりやすいヤツだ。
「ったく、遅ェんだよ…スゲー心配した…」
喜ぶナルトの横でシカマルが眉間に皺を寄せている。ポンポンとリズム良く頭の上に置かれる温かい手に、私は心まで温かくなるのを感じた。
「心配かけた」
シカマルを安心させるように笑いかけると、急に肩を引き寄せられ視界一杯にシカマルが広がる。
「反則だろ…」
「ん?何か言ったか?」
「…何でもねェよ」