中忍試験中止
階段を上り終え辺りを見回す。どうやら大名らの観客席に迷い込んでしまったらしい。……迷子ではないはず。
観客席に目を凝らすと向かい側にシカマルが見えた。よく見れば近くにナルト、カカシ先生、サクラ、イノ、チョウジ、リーがいる。あと一人リーによく似た上忍らしき人もいるが名前は分からない。
シカマルならどんなに離れていても、後ろ姿だろうと影だろうと声だろうと見つけられると思う。またそれはシカマルからも同じようでシカマルもこちらに気づいてくれた。
顔に「なんでお前はそんなとこにいんだよ!」と書いてある。「いや、迷ってしまって…」と言う意味を込めて眉を下げると、シカマルは「早くこっちに戻って来い!」とでも言うように手招きした。この時シカマルの隣でナルトが首を傾げていたのは余談である。
シカマル達の元に向かおうとしたその時。目の前に白い羽がちらつき始めた。慌てて印を結ぶ。
これは幻術だ。なぜこんな会場全体を覆うような幻術を…しかもサスケや愛羅がやったとは思えない。じゃあ、一体誰がこんな真似をしたというのだろう。
「解」
薄れゆく視界の中で幻術を解くことができた。
突然の衝撃に体が傾く。出どころは火影様や風影様がいらっしゃった頭上の観覧席からだ。私は直感的に大蛇丸の仕業であることを感じ取った。
やはり風影様は大蛇丸の変装だった。私はあの時点で勘ぐっていたのに、あの時点で声に出していたら、あの時点で火影様に報告していたら…後悔してもしきれない。
煙幕が上がった瞬間に暗部の四人小隊が私がいる大名の観覧席に飛び込んできて、攻撃してくる音の忍びと戦っていた。私は今の今まで現状把握ができず、木偶の棒のごとくつっ立っていたがハッと我に返る。
「暗部の方々!少し離れていてください!」
声をめいいっぱい張り上げ叫んだ直後、苦無を大名席の中央に放り投げた。
「翠玉結界――!!」
大名席一帯を薄緑の結界が覆う。
「水無月一族の者か…!」
結界の外で音忍と戦いながら暗部の方が言った。
「ならばここは任せる!観客席の方もあの人に任せておけば大丈夫だろう。今はより多くの敵を倒す事に専念しろ!!」
「「「はっ!!」」」
暗部の小隊長らしき人がそう言うとサッと暗部の方々の姿は見えなくなった。代わりにあるのは音の忍びの亡骸のみ。
私は暗部の小隊長が言っていた“あの人”とは誰か、と疑問に思ったが直ぐに答えが見つかった。他の観客席も薄緑色の結界で覆われていたからだ。その結界の中にいる父さんと視線が合う。ニカリと笑みを向けられた。あの人はこんな状況でよく笑えるな。
これでは中忍試験は中止になるだろう。そう思いながら結界の外で繰り広げられる殺し合いを観察し始めた。
シカマル達を思い出し、向かいの観客席を見るものの見えるのは戦っているカカシ先生、結界の中で眠っているイノ、チョウジのみ。
しかし先ほどシカマル達がいた後ろの壁に大きな穴が見えたのでそこから逃げたのだろう。それか…サスケや我愛羅を追ったか、だな。
色々と考えていたら軽く頭を叩かれた。気配で分かっているのであえて振り返りはしない。
「おめェ結界張るの上手くなったなァ。俺の結界と繋げんのに苦労したぜ?」
「繋げたからこっちに来れたのか」
「おうよ!まだまだ若造にゃあ負けねェかんな!」
ニシシと笑う父さん。この人はいつもこうだった。
この結界は繋げたり分けたりする事ができるのだがそれは張るより高度な技術が必要になる。
「で、要件は?」
「ちったァ父さんとの大切にしてくれよなァ、寂しいなァ父さんは」
「この状態で何を言うっ!!!分かっているのか!?こうしてる間にも木の葉の里の者は殺されてるんだぞ!?」
カッとなって怒鳴ってしまった。父さんに怒鳴ったなんて人生初かもしれない。
「そうそうカッカすんじゃねェ、冷静さを欠いてたら…」
ザッと私の背後に音の忍びが斬りかかって来た。どうやら大名に扮して様子を伺っていたらしい。
反射的に目をつぶる。その時父さんが余裕だった理由を悟った。
「死ぬぜ?」
思っていたような衝撃は来ることはなく、ドサリと遠くで何かが倒れる音が聞こえる。怖々目を開けると少しの返り血を浴びた父さんが片手に刀を構えたまま、薄緑の瞳で私を見据えていた。