木の葉崩し
「ヒナタはここで待ってろ!」
「レイちゃんっ!?」
直ぐ様大蛇丸を追おうと結界から飛び出す。会場の上を横切っている最中、下に砂の忍びとカブト、カカシ先生とリーによく似た木の葉の忍びと試験官が見えた。私に気づいたカカシ先生が「レイ!!追うなっ!!」と叫んだ。
足を止め、大蛇丸の後ろ姿を恨めしく思いながら見送る。
「おや?君は水無月とうちはの混血の…水無月レイ…」
何故それを知っているのかと動揺しながらもカカシ先生の隣に立った。
「貴様…何故それを…」
「しかし君の勘は侮れない…あの時僕を殺しておけば何かが変わったかもしれないね。まあ僕を殺った所で大蛇丸様は止められないだろうけど」
カブトが言う「あの時」とはカブトとの初対面の時のことだろう。私がカブトに刃を向けたあの時だ。あの場で殺せるわけないというのにコイツは何を言っているのだろう。ふざけるなと叫びたくなった。
思わず飛びかかりそうになったが、大きな手のひらが目の前に現れる。カカシ先生だった。
「落ち着きなさいって」
耳元でそう言われ少しずつ落ち着きを取り戻す。今日はナルトに感化されたせいか感情的になりすぎている気がした。
あっという間にカブトと砂の忍びは消えてしまったが、後は暗部に任せておけとカカシ先生に言われてしまった。
私は今目の前に広がる光景に為すすべもなく立ち尽くすことしかできない。
倒れている火影様。もう二度と開けられる事のない口や目は弛んでおり、微笑んでいらっしゃる。
私は火影様が大蛇丸に負けたという事実よりも、火影様が死んでしまったという事に衝撃を受けていた。
この人について行こう。そう誓ったのは先日だと言うのに。言い様のない悲壮感、絶望感、焦燥感。どろどろに混じりあったその感情に名前なんてつけられない。
「火影様…」
誰かの虚ろな言葉が鼓膜を震わせた。
後に呼ばれる木の葉崩しはこうして幕を閉じたのだった。
その後、大名や観客を起こしてから事情を説明し帰っていただく事に。説明は父さんと試験官が行い、帰り道には奇襲を受ける事を想定して各大名や大名の護衛に非常時には水無月一族の結界が張られる護符を配った。
夜、父さんと共に帰ると母さんが玄関口で待っていた。我が家は木の葉の崩しの影響はなく、いつもの姿。家がなくなってしまった人達もいるので幸運だ。
「おかえりなさい」
微笑みながら出迎えてくれた母さん。今まで張り詰めていた気持ちが一気に弛んだ。
「「ただいま」」
私と父さんが同時に言った途端、母さんは私を抱き締めた。父さんは優しい目で私と母さんを見ている。
「無事で本当に良かったわ…キオさんからレイが会場を守ってるって聞いてたけど…」
「うん…」
「火影様の話はもう聞いたわ、近くにいたからって自分を責めちゃダメよ?」
「母さん…」
私の考えを全て見抜かれていて驚いたが、母親故に分かるのかと思い直す。母さんの言葉とぬくもりに泣きそうになるのを必死に堪えて静かに頷いた。
この日常は当たり前なんかじゃない。そう痛感した夜だった。
木の葉崩し終結から二日後。雨が降りしきる中、火影様の葬儀は行われた。皆、喪服に身を包み火影様の遺影を前に火影様の死を悼む。
葬儀に向かう途中、父さんが、「この雨はこの里自体が火影の死を憂いてんのかもしれねェなァ…」とシカクさんと話していた。それを聞いたシカマルと私は何故か言葉に詰まってしまい、黙ってここまで歩いてきた。
そんな事あるはずないと分かっているものの、そうであって欲しいと思っているからかもしれない。遺影を見つめていると火影様の事が走馬灯の様に思い出せた。
「うむ、いかにもワシが火影じゃ」
「ワシと一局打ってくれんか?」
「この里、全ての者たちを守るためじゃ」
「人生は一度きりじゃ。好きに生き、好きに死んでも構わん」
「ただし、大切な人を守る事だけはいかなる時も忘れてはならん!よいな?」
物思いに耽っている間にいつしか雨は止み、雲の隙間から太陽が覗きだした。イルカ先生の話に耳を傾けながら空を仰ぐ。
「いつまでも落ち込むでない。これからに活かせば良い」と空が、火影様が、言っているのが聞こえた気がした。