柳の花言葉


帰宅すると母が庭で上を見上げていた。黒髪が風に靡き木々がざわめく。その様は儚くも穏やかだ。

「この木はね、この家が建てられるずーっと前からここにあったのよ」

母に習って縁側から大樹を見上げる。垂れた枝がサワサワと心地よい音を奏でながら揺れていた。

「柳って花が咲くのよ」
「花…?」
「花言葉は我が心の悲しみ、愛の悲しみ…ってこの間イノちゃんに教えてもらってしみじみしてたの」

母の微笑が霞んで見えたのは気のせいだろうか。瞬きを繰り返すが、母はいつものように笑っているだけだった。

「あ、そうそう…レイとサスケくん…二人に話があるの、うちはの者として」

口調はいつも父の伝言を伝え忘れたような言い草だったが、目は真剣そのものだった。

▽▲▽


どこに行ってもサスケは見当たらない。諦めて帰ろうとした時、サクラに出会った。

「あれ、レイ!久しぶりねー」

ニコニコと笑うサクラはイノといがみ合っている時とは別人だな、と密かに思う。私はイノと共に行動することが多いせいで彼女は怖い女の子という印象が強い。

「サクラ、サスケを知らないか?」

途端、サクラの顔が曇った。

「サスケ君は…入院中なの…意識が戻らなくて…」
「そうか…教えてくれてありがとう」

いつの間にそんな出来事が起こっていたのか。それならば今日は諦めるしかない。

「サクラがそんな顔してどうする。直に目は覚める、死んでるわけじゃないんだからな」

彼女は一瞬驚いたが嬉しそうに笑った。

▽▲▽


すっかり暗くなってしまった空の下、私は考えながら歩いていた。

ここ数日、我愛羅に言われたと言うこともあり、無関心を治そうと試みている。しかし昔からの癖は中々治りそうにない。アスマ先生は「少しずつで良い、気づけた事に意味があるさ」と言っていたため、少しずつ悪癖を治していこうと思う。

そうだ、今まで興味のなかった料理にも手を出しみよう。母に頼めば喜びそうだ。

家の前に着いたが人の気配がない。一応、「ただいま」と声を発するものの返事はなかった。

縁側に出てみると視界の端にサワサワと揺れる柳が入り込む。揺れる枝葉の中に奇妙な動きをする物があった。

「ん…?」

どうやら何かが引っかかっているようだ。近くに行ってみようと庭に降りる。すると庭に敷き詰められた砂利が異様に乱れているのに気がついた。稽古した後とは比べ物にならない程の荒れ様だ。何かあったのだろうか。

柳に近づき、目的の枝を手に取ると紙が括りつけられていた。不思議に思いながらその紙を解き開く。その文字を目にした瞬間、目を見開いた。

「どういう事だ…」

グシャリと紙を握りつぶす。

その時、足元がキラリと光ったので目を向けると翠玉の首飾りが転がっていた。これは母さんがいつも身につけていた物だ。

『これは水無月一族の当主が代々受け継いだ大切な物なんですって。でもねあの人、プロポーズの時にこれを渡して来たのよ?"これでコトは水無月の一員だ!オレの妻だ!文句言うヤツァ出てこい!当主様直々に相手してやらァ!!"って啖呵切っちゃってカッコよかったんだから!』

幸せそうにそう言った母さんの笑顔が脳裏に蘇った。

「お?オメェ、帰ってたのか。帰ってきてたんならおかえりの一言でも言えってんだ」

後ろから突然父の声が聞こえ、思わず肩が跳ねた。父は任務帰りなのか刀を腰に差したままだ。

「どうしたってんだその顔…何かあったのか…?」

近寄ってきた父に握りしめていた紙を見せた。ついでに拾った翠玉の首飾りも渡す。瞬間、父は目を見開き私に詰め寄った。

「最後にコトを見たのはいつだっ!?」

気迫に押され一歩後ろに後ずさる。こんなに取り乱した父を見るのは初めてかもしれない。

「…夕方だ。私は母さんにサスケを呼ぶように言われ探しに家を出てからは見ていない」
「サスケ……まさかアイツ…!!」

父は首飾りを押し付けて、私の頭を撫で回す。揺れる視界の中で見えた父はとても苦しそうだった。

父は手紙を懐に入れると踵を返し走り出した。

「その首飾りテメェに託す!ぜってえ無くすんじゃねェぞ!んで家で寝て待っとけ!必ず母さんと戻ってくっからな!」
「父さんっ!?」

父はニカリと笑って見せる。そしてあっと言う間に、水無月一族特有の速さで姿を消してしまった。

全てがいきなりの事で全く頭がついて行けない。ただ呆然とその場に立ち尽くすばかりだ。風がサワサワと柳の枝を揺らすと私の髪も揺らした。


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