女の子なんだから
「また入院するわよチョウジ!もっと味わって食べること知らないのー?」
入院、その単語に眉をひそめる。チョウジは幸せそうに焼肉を頬張りながら答えた。
「いいの!オレはいっぱい食べてもちゃんと味わう方法を知ってるから!」
イノはそんなチョウジの言い分に呆れたように溜め息をはいていた。
「チョウジ、入院してたのか?」
「あ、そっか、レイは知らないんだっけ。丁度レイがカカシ先生と修行に行った頃、チョウジったら焼肉の食べ過ぎで入院してたのよ」
私が知らないわけだ。謎が解けた。「そうか」と返して冷麺を口に含む。
「そう言えばレイが修行でいない時、レイに布団をかけて貰う夢を見たなぁ…」
冷麺が気管の方に入りかけた。むせているとシカマルが無言で水を差し出してくれる。
「うそっ!私もおんなじ夢見たわ!」
「へー!スゴイ偶然だね、シカマルは?」
ドキリと心臓が跳ねた。シカマルは全てを知っている。内心ヒヤヒヤしていたが彼は「さーな」とそっけなく答えた。
肩透かしを食らった気分だ。彼の横顔を盗み見ると何故か満足げだった。
「ねぇ、レイ」
ここは女子トイレの手洗い場であるため私とイノしかいない。鏡越しに彼女の真剣な瞳が私を捉える。
「その手、さすがに見逃せないわよ」
反射的に肩が跳ねた。悪いことがバレた子供の気分だ。トイレで外した手袋をつけ忘れていた事に今気がついた。
「ちゃんと見せて」
手を取られて彼女の前に両手が晒される。私の両手は豆が潰れ、腕は打撲だらけ。見るも無残な姿にイノが顔をしかめた。
「レイ…」
「す、すまない…」
「私が何で怒ってんのか分かってないでしょ?」
とりあえず謝ったのがバレていたらしい。ギクリと固まってしまう。イノは深くため息を吐いて優しく私の手を撫でた。
「女の子なんだからちゃんとケアしなきゃ駄目じゃない」
ふいに彼女の綺麗なロングヘアが目の前を流れた。毎日手入れが大変だと嘆いていたのを思い出す。彼女の美しさは努力の上に成り立っていることを改めて思い知った。
手洗い場を出るとシカマルを待っているのかチョウジがいた。
「チョウジ…アンタはいいわねー、ガツガツ食べても気にしない性格で。私なんてダイエットで大変よー!」
イノの伝えたい事を察した私はしばらく傍観する事にした。一見貶しているような言葉の裏には隠された優しさがある。彼女なりにチョウジを心配しているのだろう。なんでもソツなくこなす彼女なのにこういう所は不器用なのだ。
焼肉屋で解散した後、アスマ先生に呼び止められた。
「まぁちょっと着いて来い」
そう言ったアスマ先生に黙って着いていく。辿り着いた先は火影様の部屋の前。苦々しい顔付きのアスマ先生は一息つくと扉をノックした。
「入れ!」
声のままに火影様の部屋に入る。中には火影に就任したばかりの綱手様、付き人の女性、そしてカカシ先生がいた。
「アスマ、ご苦労だった」
アスマ先生がカカシ先生と並び、私一人が真ん中に残される。妙な緊張感のせいか背中に一筋の汗が伝った。
もしや両親の事で何かあったのだろうか。
「いきなり呼び出して悪かった…というか何でカカシがここにいるっ!?」
「そりゃまぁ、可愛い妹みたいなモンですし何より俺の弟子ですから」
飄々とした様子のカカシ先生に綱手様は深い溜め息をついた。
「カカシ…それは何だ?私に対する嫌味か?」
「まさか。上層部が決めた事に口出しなんてしませんって」
「私は何も見ていないから何とも言えなかったんだよ、文句を言いたいんなら御意見番に言え」
「はいはい」
全く話が読めない私は黙って聞いている事しかできない。
「綱手様」
「ゴホン…話が脱線してすまなかったな…呼び出した理由は他でもない…」
綱手様は言葉を区切り、一旦目線を落とすとスッと私を見た。無意識に喉が音を立てる。
「水無月レイ、お前に暗部要請が下った」