猪鹿蝶
葬儀終盤、ヨシノさんに呼び止められた。彼女の少し後方にはシカクさんが佇んでいる。二人とも真っ赤に目を腫らし、目の下には濃いクマが刻まれていた。
「ヨシノさん…」
「レイちゃん…あのね」
彼女の両腕が私の肩を掴む。水仕事で荒れた、母親の手だ。
「ウチに来ない?」
言われた意味を飲み込めず、ヨシノさんを見上げる。やつれた彼女の瞳がいつの間にか涙ぐんでいるのに気がついた。
「レイちゃんはもはや娘同然だし、ウチは全然問題ないのよ、シカマルも喜ぶだろうし、ご飯もコト以上のものは作れないけど毎日ご飯作ってあげられるし、それに」
矢継ぎ早に言うヨシノさんの肩に大きな手が置かれる。シカクさんだ。ヨシノさんははっとして振り返ると口をつぐむ。
私は二人を交互に見て深々と頭を下げた。
「大変嬉しいのですが、お断りさせて下さい…申し訳ありません」
頭を上げて二人を見る。ふいに父さんと母さんの面影を思い出した。私は彼らに頼ってしまったら楽にはなるだろう、けれど前には進めないのだ。
「私はあの家に居たいんです」
そう言うとシカクさんが苦笑を漏らす。ヨシノさんは「いつでも遊びに来て頂戴ね」と言って抱きしめてくれた。
葬儀が終わった後、シカマルやイノに連れられ何故かチョウジの病室まで来た。不思議に思いながら病室に入る。チョウジの痛々しい姿に顔をしかめた。
「もう起きて平気なのか」
「うん!まだお腹いっぱいご飯は食べられないけどね!」
基準はそこなのか。
ベッドの周りを囲む様に座る。三人の目線は私に集中した。突き刺さる視線に喉が音を立てる。一体全体何を言われるのだろうか。
「レイ、暗部に誘われてるって本当?」
瞬間、体が強張った。何故彼らが知っているのだろう。アスマ先生が伝えたのだろうか。視線を彷徨わせる。
「い、いや…その…」
「言い方を変える、レイはどうしてェんだ」
シカマルによって前提が変えられた。暗部に誘われているのは決定事項のようだ。それが事実なので反論するつもりはない。
どうしたいか、口の中で反復する。考えるもののなかなか結論が出ない。
「レイ」
優しい声にハッとして顔を上げた。シカマル、イノ、チョウジと視線が重なる。胸が熱くなった。
「…暗部に行ったらフォーメーション、崩れてしまわないか」
「大丈夫!退院したらアスマ先生にいっぱい特訓付き合ってもらうから!レイがいない分も頑張るよ!」
不安を吐露するとチョウジが笑う。
「…暗部に行ったら顔を合わせるのも難しくなるだろう」
「それも大丈夫でしょ!暇あったらレイん家、押しかけるつもりだから覚悟しなさいよー?」
弱音を吐露するとイノが笑う。
「…暗部に行ったら公にできない様な任務にも付くことになる。それでも側にいてくれるか…?」
「ばーか、猪鹿蝶舐めんな。レイが嫌がっても側から離れねェよ」
我儘を吐露するとシカマルが笑う。
「私は…それでも…父さんと母さんが見ていた世界を見てみたい。父さんと母さんを愛してくれた里の人たちを守りたい」
私は精一杯の笑顔を三人に見せた。
「綱手様に伝えてくる!」
「行ってらっしゃい!」
「帰ってきたらお祝いしなきゃね!」
「おう、行ってこい」
三人の心強い声に背中を押されて病室を飛び出す。一直線に火影室に向かった。