火の意思


火影室に足を踏み入れると目元を真っ赤に腫らした綱手様が居た。おそらく誰もいないこの部屋で泣いていたのだろう。彼女の一人の時間を邪魔してしまった事に申し訳なく感じた。

「どうした、そんなに慌てて」

一つ深呼吸をして心を鎮める。

「返事をしに参りました」

そう答えると綱手様は佇まいを直した。無言で先を促されているのを感じる。

「一つ、綱手様にお伺いしてもよろしいでしょうか」
「なんだ、言ってみろ」
「貴女は何故火影になられたのですか」

綱手様の背後に見える青空が一層青く見えた。彼女は微笑を浮かべて立ち上がる。

「これは私の最後の賭けなのさ」

綱手様はそう言って背を向けた。“賭”の一文字が彼女の背ではためく。華奢だが、しっかりとした背中だ。

「想いは…想いを受け継ぐ存在を得て永遠に残り続ける。それを一人のガキに気づかされてね…そのガキの夢が叶うまで“火影”という名と木の葉の里を守り続けてやろうと思ってな…」

振り返って朗らかに笑う綱手様。

「それが私の火影になった理由だ」

私は綱手様の火影のあり方を聞いて思わず鳥肌が立った。前火影の意思はしっかり受け継がれている。そう感じた。

こういう尊い意志をなんと言うのだっただろうか。父さんが幼い頃言っていた言葉を思い出す。そうだ、“火の意志”だ。

私は静かに目を閉じた。このお方なら全力で仕える事ができると確信できる。前火影で果たせなかった忠誠心を胸にゆっくり瞼を開けた。

「分かりました。綱手様、否火影様。暗部要請の件、引き受けさせて下さい」

跪いて頭を下げる。

「いいのか、本当に」
「はい」

顔を上げると火影様は困った様に眉を下げた。はて、困らせる様な事を言っただろうか。

▽▲▽


形見分けを希望する人が大勢いたため、遺品整理を早急に取り掛からなくてはならない。あまりの物の多さにゲンナリしていると、奈良夫婦がそれを聞きつけ手伝いにやってきてくれた。

台所や衣類はヨシノさんに任せ、私とシカクさんは倉庫を担当する。

倉庫から大量に出てきたのは父さんが集めていた骨董品の数々。これら全て飾るわけでもなくこんな所に閉まっていたらしい。骨董品の良さが分からない私からすると何が面白くて集めていたのかさっぱりである。これらはシカクさんが預かってくれることになった。

次に多く出てきたのは父さんの刀。シカクさんに聞くと父さんは刀をしょっちゅう折っていたらしい。だからこれらはスペアだろう、とのこと。それにしたって有りすぎだ。何本か良さげなのを拝借し、後は武器屋に買い取ってもらった。


シカクさんが骨董品を吟味している時、不思議な木箱を手に取る。何かが入っているにしては軽すぎる重さだ。開けてみると中から出てきたのは暗部の面だった。しかも二つ重なっている。

「シカクさん!」
「ん?おぉ、そりゃキオとコトのだな」

え、と面を両手に持ったまま固まってしまった。シカクさんの口から父さんだけでなく母さんの名前が聞こえたのは気のせいだろうか。

「キオとコトの為にもそれは大事にとっとけ」

シカクさんはニヤリと笑った。聞き間違いではなかったようだ。
両親揃って暗部だったなんて、私が暗部に入るのは運命だったのかもしれない。小さくため息を吐く。

ふと面の下に敷かれていた布の更に下に数枚の写真が挟まれているのに気がついた。引き抜いてみるとそれらは両親の暗部にいた頃の写真で、少し色あせている。

中には幼いカカシ先生が写っている写真もあった。これは面白い。その内の一枚にとある人物が両親と共に写っている写真があった。

「どうかしたかぁ?」

シカクさんの声に反応して思わずその写真をポケットに突っ込む。

「い、いえ!」
「その調子じゃ夜になっても終わんねェよ?」
「すみません!」

写真を掴む手に力がこもる。何故、うちはイタチと両親が仲良さげに写っているのだろう。


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