完璧フォーメーション
「レイー?いるんでしょー?」
玄関から声が聞こえたため、素振りをやめる。この声と気配はイノだ。彼女は庭までくると大層顔を歪めた。
「ちょっとちょっと」
「なんだ」
「なんだじゃないでしょ!全く…綱手様にお休み貰ったんじゃないの?」
「だから修行しているんだが?」
意味がわからず首をかしげる。イノはそんな私を見て深く吐息した。ますます訳がわからない。
「あ!また怪我してるじゃない!」
「いやこれくらい…」
「そうやって軽く見てたらおばさんになった時痛い目見るわよ!ほら、ここに座って」
彼女に促され、縁側に座る。最近イノは綱手様から医療忍術を教わっているらしくなにかと私で試してくるのだ。練習台と思えばいくらでも付き合う。ただ本当に小さな生傷でも見逃してもらえないのは少し辛いものがある。
「これでよしっと!」
治療を終え、イノは満足げに笑った。
「ありがとう」
「いいのいいの!むしろ練習できて有り難いし!」
イノの力になれるならいくらでも傷を作ってこれる。そう言おうとしたのを喉元で押しとどめた。これは禁句らしくシカマルに「言ったらどうなっても知らねーぞ」と脅されているので言わないでいる。本心ばかり口にするのも利口でないと最近知った。
「そういえば、ランチ食べた?」
「いや、まだだが…」
「良かった!こっち来て!」
訳もわからず腕を引かれて玄関まで連れて行かれる。今日のイノは一段と強引だ。それにいつも以上に生き生きしている気がする。彼女の瞳がキラキラしているのが何よりの証拠。
「じゃあチョウジ!お願いね!」
「はーい!任せて!」
玄関を出ると待ち構えていたのはチョウジだった。一体全体、どういうことなのか。何を彼はお願いされているのだろう。チョウジに腕を引かれながらイノに見送られる。あれ、イノは一緒じゃないのか…というかどこに向かっているのだろう。
着いた先は定食屋だった。
「ここ僕の行きつけなんだよ。すっごく美味しいからレイと食べようと思って」
連れてこられた理由を知りようやく合点がいく。その時チョウジの腹の虫がこれでもかと主張した。彼と顔を見合わせる。
「入るか」
「そうだね」
チョウジの少し広くなった背中を追い、のれんの下をくぐった。店内は人でいっぱい。なかなか繁盛しているようだ。美味しそうな香りに包まれ、自身も空腹であることを自覚した。
目の前に運ばれて来たご馳走に箸をつける。いつもより美味しく感じるのは誰かと共に食べているからだろうか。そういえば昨日まで長期任務で里を離れていたため、まともな食事をするのは久方ぶりだ。そのせいもあるかもしれない。
「レイの事だからちゃんと食べてないんじゃないかって皆んな心配してたよ」
「皆んな?」
「うん、シカマルとかイノとか僕の父ちゃんと母ちゃんも…もちろん僕もね」
どんぶりを片手にチョウジは笑った。
「兵糧丸ばかりだったからな…」
「それは良くないよ。ちゃんとバランス良く食べないと」
優しく諭され、私は小さく頷く。食を愛している彼に言われてしまったら何も言い返せない。
チョウジに習って目の前の白米を無言で掻き込んだ。
腹が満たされ、定食屋を出るとまた人が待ち構えていた。今度はシカマルだ。
「じゃあ後はよろしく」
「おー任せろ」
またしても訳が分からないまま腕を引かれる。チョウジに笑顔で見送られ着いた先はとあるビルの屋上にある東屋。ここはシカマルと共に以前よく訪れた懐かしい場所だ。
「さーて寝るかぁ」
シカマルはごろりと横になった。私はその側に腰掛ける。彼が寝ている間、詰碁集でも解いていようと本を取り出した。
「ほら、レイも来いよ」
急に腕を引っ張られ体が倒れる。慌てて手を着くが引き寄せられ遂に横になってしまった。
困惑し、シカマルを見る。彼はとても優しげな目で私を見ていた。それがなんだかむず痒くなり視線をそらす。
「今日のは全部シカマルの仕業か?」
「まあな」
シカマルが私の髪に触れた。まるで壊れ物に触れるかのような手つきだ。
「根詰めすぎだっつーの。たまにはのんびり昼寝でもしようぜ」
再び隣を見ると彼は両目を閉じていた。その横顔をこんなに近くで見るのは久しぶりかもしれない。まじまじと見ていたら目元に大きな手が被さった。
「ったく、お前が寝ねーと意味ねェんだよ。早く寝ろ」
優しい声と優しい日差しの元で私は瞼をゆっくり閉じる。途端に微睡んでしまうのは思っていた以上に疲れが溜まっているせいだろうか。
揺らめく意識の中で「おやすみ」という声が三つ聞こえた。今はシカマルしかいないはずなのに。私は本当に疲れているみたいだ。