砂の三兄弟


「降りてこい」

その一言で全て悟った。一旦離れて立て直そうとするが一つの眼球に阻まれる。見たことあるそれに背中が粟立った。

退路を断たれ仕方なく彼らの前に降り立つ。カンクロウとテマリの目には困惑と警戒の色が見えた。

「てめーは…」
「木の葉の暗部か!」

二人が構える。それを一本の腕が制した。

「いや、コイツは…水無月レイだ」

我愛羅の無機質な声にピクリと体が反応する。暗部の面を身につけていたというのにバレたのは背中にある大刀のせいだろうか。

「……間違ってはいないが、今はただの暗部だ」
「……お前、真面目なんだな」
「……それ言っちゃダメじゃん」

テマリが警戒を解いた。カンクロウもそれに続く。

「何であたしたちをつけてたんだ?」
「監視兼護衛のためだ」
「……それも言っちゃダメなやつじゃん…」

呆れる彼らと首をかしげる私。不思議な沈黙が生まれた。はて、護衛対象に任務を伝えてはいけないと火影様に言われただろうか。いや言われていない。

任務の内容は木の葉から砂に帰る彼らの道中を監視兼護衛をすること。暗部に入ってから初の単独任務だ。

そんな中、我愛羅が先を歩き始めた。

「ついて来い」
「は…?」
「ちょ!我愛羅!」
「周りをウロチョロされるのも目障りだ」

彼が歩みを止めないためドンドン背中が遠のいていく。カンクロウとテマリは慌ててその背中を追った。

私は言われた言葉を脳内で噛み砕く。彼と一戦交える覚悟で降りてきたというのに肩透かしを食らった。いつぞやの修行の時とは別人のようだ。

違和感を胸に三人の背中を追いかけた。

▽▲▽


「だから何故直ぐ殺すんだ、殺さずとも捕縛出来ただろう」
「殺す以外の選択肢はない」
「どこから仕向けられたのか知る必要があると何度も言わせるな」
「知る必要もない、ただ殺せばいい」
「せめて木っ端微塵にするな」
「…………」
「おい、聞いているのか」

スタスタと歩く我愛羅の後ろをついて歩く。何度このやり取りを繰り返しただろう。思い返したくもない。頭が痛くなってきた。

道中、何度も刺客に出くわした。その度に我愛羅が砂で握りつぶしてしまうのだ。そうするとなんの情報も残らない。せめて仕向けてきた元を辿りたいというのに。

「我愛羅」

もう一度名を呼ぶが、我愛羅は答えない。彼は砂に乗ってふわりと空中に舞い上がってしまった。これでは何も言えない。深いため息を吐いた。

「お前すげーじゃん」

隣にカンクロウが並んだ。彼は背中の傀儡を背負い直して上を見上げる。

「何がだ」
「我愛羅とあんなに言い合えるのはお前だけ…いや、うずまきナルトもか」

ゆっくり瞬きを一つ。

「兄弟喧嘩はしないのか?」
「………まあな」

カンクロウは気まずそうに俯いた。少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。

空中には未だに浮いたままの我愛羅がいる。その背中は何を考えているのかさっぱり分からない。

「あれが弟だと兄は苦労するな、性格に難がありすぎる」
「ぶはっ!!そこかよ!」

彼は何故か突然吹き出した。何かおかしな事を言っただろうか。あんな聞き分けの悪いヤツ、兄としたらめんどくさいだろうと思ったが違うのだろうかか。兄弟がいない私は全く想像が付かない。

「お前サイコーじゃん」

カンクロウがニヤリと笑った。

▽▲▽


砂の三人は宿を使用せず野宿を選んだ。食事を終えると焚き火を消して就寝する。

少し離れたところに砂のドームがある。これは我愛羅が作り出したもので夜は大抵その中にいるらしい。カンクロウはそれの近くで横になっていた。

「あんた、幼馴染くんとは違って度胸あるんだな」

テマリが私の隣に腰を下ろす。水汲みが終わったのだろう。手には竹の水筒が握られていた。

「シカマルのことか?」
「あぁそんな名前だったか」

テマリが水筒に口をつける。ふとシカマルの話を思い出した。たしかシカマルはサスケを追う任務の時、彼女に助けて貰ったと言っていたはず。

「それは…シカマルを低く見積もり過ぎだ、私なんか足元にも及ばない」
「そうか?アイツ、任務失敗した時ボロボロ泣いてたぞ?」

ボロボロ泣いていた?あのシカマルが?

驚いて言葉が出なかった。信じられない。私に見せない彼の弱さなのだろうか。そう思うとなぜか心の奥がツキンと痛んだ。

「それに…水無月レイ、アンタは自分を低く見積もり過ぎなんじゃないか?」

暗闇に慣れた目で彼女を見上げる。テマリはニヤリと笑って見せた。

「アンタはアンタが思ってる以上に良い忍びだよ」

▽▲▽


三日の旅が終わり、別れの時。

「世話になったな」
「……嫌味か」

我愛羅の一言にヒクリと口元が引きつった。何が「世話になった」だ。刺客のほとんどを殺したのはお前だろうが。そう言いかけたが、テマリやカンクロウに「まあまあ」と宥められ喉の奥に仕舞い込んだ。

「帰りの道中に食べると良い」

テマリに差し出された包みを受け取る。中には三日分の食事が入っていた。

「一日分で事足りるため、こんなに頂くのは申し訳ない」
「は?一日?」
「一日で木の葉に帰れるのか?!」
「あ、ああ」

あまりの食いつきっぷりに思わず後ずさる。そういえば暗部の人たちにも最初驚かれたのだった。猪鹿蝶の反応に慣れていたため新鮮だったのを覚えている。

「それは良いことを聞いた」

我愛羅がそう言って少し笑った。ように見えた。見間違えかと思い、瞬きをしてもう一度見る。しかしそこにいたのはいつも通り仏頂面の我愛羅だった。この三日間の気疲れで目がおかしくなったのかもしれない。

ただやはり兄弟とは似るものらしい。一瞬しか見えなかった我愛羅の笑顔はテマリやカンクロウと重なるものがあった。

その後、砂からご指名で任務に駆り出される事が増えるのだがそれはまた別の話。


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