ひとつぶ分の笑顔



「それより、これからどうする」

子供たちがそれぞれのパートナーデジモンと会話している中、そう切り出したのはヤマトだった。それに対し即座に丈が答える。

「元の場所に戻ろう!大人たちが助けに来るのを待つんだ」

全員、元いた森である崖の上を見上げる。彼の言葉は最もだったが、見れば見るほど遠く感じる。

「戻るって言ってもなぁ…」
「随分流されちゃったし」
「崖の上にまで戻るのは簡単じゃなさそうだぜ」

太一、空、ヤマトの三人が渋る声を上げた。丈以外の者は皆浮かばない表情。
彼ら五年生組に否定されてしまった丈はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

「どこか道を探して…」
「大体ここはどこなんだ。どう考えてみてもキャンプ場の近くじゃないぜ」

それでも何とか皆を戻らせようと説得を試みたが、冷静に現状を分析しているヤマトに言い返されてしまう。

「そうですね…植物がまるで亜熱帯みたいだ」
「ホンマや!」
「え、わかるの!?」
「いんや」

光子郎はがっくり肩を落とした。再び丈は何度も戻るよう説得を試みる。

「降りてきたんだから戻る道もあるはずだ」
「そうね、とにかく戻ってみればどうしてこんな所に来たのか何か手がかりがあるかも」
「えぇ〜!!」

空が賛同しかけたがその言葉にかぶせるようにしてミミが不満げな声を上げた。

「でもさっきみたいのが他にもいるんじゃなぁい?」
「いるわよ」
「ほらぁ…」

パルモンに現実を突きつけられミミは項垂れる。落ち込んだミミの背中をさすり、慰めつつルルも口を開く。

「次も勝てるとは限りませんし…」
「そうだな、危険は冒したくないな…」

ヤマトもそれに賛同した。この二人はお互い守ってやらねばならない存在がいるからこその言葉なのかもしれない。
口々に皆が質問や疑問を投げかける中、ルルは座り込んでいたミミの隣に座った。

「私もう疲れた…」
「じゃあこれあげるから元気だして」

そう言ってポケットから取り出したのはイチゴみるくの飴。
ミミの手のひらに乗せてやると途端彼女は笑顔になった。包み紙をはがし口に入れるとじんわりと甘さが口に広がり、疲れていた体にはなおさらそれが染み渡る。

「あまーい!おいしー!」
「ミミ、いいなぁ」
「パルモンにもあげる」
「オレも!」
「はいはい」

順番に飴玉をそれぞれの口に放り込んでやると、二匹も笑顔がこぼれた。

そんなお気楽な二人と二匹とは違って他の子供たちは話し合っていたが、結論が出ないでいた。すると唐突に太一が動き出す。

「とにかく行こうぜ!ここでじっとしててもしょうがないよ」
「どこに行く気だ!」

突然の事にヤマトが引き止める。立ち止まった太一は不安そうなヤマトの表情とは裏腹に振り返って明るい笑顔を見せた。

「さっき海が見えたんだよ!」
「海…?」
「そう!だから行ってみようぜ!」

歩き出した彼につられるようにして皆歩き出す。
彼のこのリーダーシップにはこれから先、何度となく救われることになるのだが、まだ誰一人として知る由もない。


→→→


「ルル―、さっきくれたのなんて言うんだ?」

レオルモンは器用に肩に乗ったまま顔にすり寄って来る。とんでもないバランス力の持ち主らしい。ルルもレオルモンの喉の辺りをくすぐると猫のように目を細めるのだから中々やめられないでいた。

「ああ、あれは飴だよ」
「雨?」
「違う違う、そっちのアメじゃなくて飴」
「そっちってどっちだよ!」

ギャンギャン言うレオルモンに「どっちでしょう」なんて適当に答える。
前を歩くミミを見るとパルモンと楽しそうに話していたため、小さく安堵の息を吐いた。


「ミミ君とルル君って双子なんだって?」

ふいに少し後ろを歩いていた丈がルルの隣に並んだ。
彼の顔を見上げると「ただふと気になった」と書いてあるように見えた。

「ええ、まあ」

思わず歯切れが悪くなる。しかし丈は気に留めていないようだった。

「やっぱりテレパシーとか感じたりするのかい?」
「うーん…あんまりですね」
「私たちはテレパシーよりもふかぁ〜い所でつながってるもんねー!」

唐突に話に割り込んできたのは前を歩いていたはずのミミだった。
がっしりと腕を組まされ、ルルは乾いた笑顔を浮かべる。

離れて過ごした事がないとか好きなものが全部一緒だとか自慢げにミミが話しているといつの間にか子供たち全員話題に加わっていた。双子というのは実際に体験できない事であるため。やはり興味がわくのだろう。

そんな中、自分のパートナーが一瞬苦い顔を浮かべたのをレオルモンは見逃さなかった。

わいわいと話しながら歩いていると一行は海に辿り着いた。

「見えたよ!海だあーい!」

ゴマモンがあまりにも嬉しそうなのは彼の姿がアザラシやアシカの類いに似ているせいだろうか。


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