捨てたわけじゃない

「#name4#って本気で俺らの事、サポートする気ある?」

授業の合間、前の席から唐突にそう言われた。手に持っていた古典の教科書を机に置き、顔を上げる。小湊君の目と口はいつものように弧を描いていた。これほど怖いことはない。

「どうしてそう思うの?」

彼は眉をピクリと動かした。質問に質問で返したのがまずかったかも知れない。

「マウンドに未練タラタラな顔してんの気づいてないの?」

カタリと心臓が音を立てる。痛いところを突かれた。
マウンドに未練なんて残してるつもりはない。ただ焦がれる事がないかと言われたら嘘になる。

「中途半端なヤツにサポートされたくないんだけど」

今度はグサリと心臓に矢が刺さった。おっしゃる通りです。

「そんなに投げたいならソフトに入れば良かったのに。そしたら思い切り投げれるし裏方に回らなくても済むよ」

いつの間にか下がっていた目線をもう一度前へ向ける。小湊君はニコリと更に笑って見せた。これが威嚇姿勢だと気づいたのは結構前。

野球を始めたのはお父さんを立ち直らせるため。のはずだったのに気づいたら自分のエゴで続けていた。見守りたい、そんな建前を使ってマウンドに上がり続けた私をチームメイト達は認めてくれていたのだから感謝しかない。
いや、そうではなくて。

「…私は確かに諦めきれてないよ、投手もそうだし甲子園も」

彼の口元が引き結ばれた。

「だから今まで学んできた事を全て君たちに託すために誠心誠意マネ業に励んでるつもり」

柔く微笑む。小湊君は数秒の沈黙の後に大きなため息を吐いた。

脳裏に過る青と緑と茶色の世界。大歓声の中、飛び交う白球。女だろうと少年たちと野球をやっていてあの場所に憧れないわけがない。ただ憧れたところで私はあそこに立てないのは知っている。スタンドで良いからそこへ行きたいと方向転換するのは容易かった。人生二度目、割り切れない物はない。

一番はお父さんに「スタンドで応援する眞白が見たい」と言われたのが大きい。彼は私が野球を始めた理由を知っていたから尚更影響を受けた。もう大丈夫と言われたようなものだ。
ただ彼は野球以外でコミュニケーションを取れないらしく、キャッチボールは執拗に迫ってくる。これは一生付き合わされるだろう。まあ、それは置いといて。

「重過ぎ、背負わされる身にもなってよ」
「君達ならちょうど良いかなって思ったんだけど?」
「……上等じゃん」

小湊君は口角を釣り上げて不敵に笑った。ピンクの髪が揺れる。

「じゃあ#name4#が変なオーラ出してたら遠慮なくしばかせてもらうよ」
「変な?」
「投げたいですオーラ」
「そんなオーラ出てる?」
「出てるから言ってるんだけど」
「いたいいたい」

いつもより言うほど痛くなかったのは気のせいだろうか。頬が慣れたのか、それとも。