「眞白さん!」
聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると御幸君が高島先生の隣で手を振っている。そういえば昨晩、見学に来ると彼からメールが入っていたっけ。
突然、持っていたドリンクの粉を先輩に奪われた。
「高島先生から話は聞いてるから行っといで」
背中を押し出される。ニヤニヤしたその顔、「後で洗いざらい聞き出すからね」と言いたいんですね。近くにいた貴子からも興味津々といった様子。別にそんなんじゃないんだけどなあ。そもそも変な勘違いは御幸君に申し訳ない。
まあ、それは後で誤解を解くとして。
近くに行くと彼の成長を感じた。また背が伸びたみたいだ。
「久しぶりだね、元気してた?」
「白々しいなーメール全然返してくれなくてすっげー寂しかったのに」
「あはは嘘つき」
「辛辣っ!」
高島先生はそんなやり取りを聞きながら眼鏡のブリッジを持ち上げた。
先輩マネさんは彼女から話を聞いていたと言っていたけれど、肝心の私は全く何も聞かされていない。これは一体どういう事なのか。
「田之倉さんに彼の案内をお願いしてもいいかしら。私はこの後職員会議に行かなきゃいけないから」
………。高島先生と御幸君を交互に見る。これは嘘だな。けれど大人の顔を立てるのも大事。気づかないふりをして笑顔で了承した。
高島先生が去った後、ジトリとした視線を隣に送る。
「やっぱバレました?」
「どーせ御幸君が高島先生にお願いしたんでしょう?」
「さっすが眞白さん」
深いため息を吐きそうになったが、懐いてくれているのだから蔑ろにするわけにもいかない。周囲から好奇の目を向けられながらも渋々案内を始めた。
大体の案内を終えると、御幸君が練習風景をもう少し見たいと言うので土手に上がった。案内の最中、東先輩に見つかり面倒なことになりそうだったので近くにいた伊佐敷君に押し付けてしまったけれど大丈夫だろうか。
「やっぱすげーな青道は」
彼は真っ直ぐグラウンドを見下ろしている。その横顔は昔の面影を残しつつも凛々しい。私の予想は当たったなと確信した。
「そういや、眞白さんってあれから鳴と連絡取ってます?」
あれから、というのはあの絶交電話からだろう。電話がかかってきた時、声が聞こえると思ったがあれは御幸君だったのか。
詳しく聞くと鳴がシニアの有名選手を集めて御幸君を稲実に勧誘した時、御幸君がポロっと私の話をしてしまったらしい。そこで私が青道にいることが分かり、激昂した鳴が私に怒りの電話を寄越したのだという。
「そういう事ね」
「俺まずい事言っちゃいました?」
「いや、あの子に私が勘違いさせちゃっただけだから御幸君は悪くないよ」
そう言うと彼は目元を和らげた。この子なりに責任を感じてくれていたのだろう。
彼の頭を撫でようと手を伸ばしたが、物凄い勢いで避けられてしまった。
「えー…」
「いやいやいや、俺もう来年には高校行くんですよ?」
「まだ子供じゃない」
「それを言うなら眞白さんもでしょ」