常に役者であれ

「昨日、なんかあったのか?元気ないぞ」
「えー?そう?まだ眠いだけだよ?」

登校中、テツ君が心配そうに私の顔を覗き込んだ。うん、高学年になってからますます男前に磨きがかかってきた。おばさんちょっと心臓止まりかけましたよ。

欠伸の真似をして気をそらすものの、テツ君には通用していなかった。訝しげに未だこちらを見ている。

「もしやまた野球チームの奴に何か言われたのか」
「違うって!もう私の事認めてくれたから何ともないよ、むしろ仲良くやってるし」
「む……」

突然テツ君が黙り込んでしまった。眉間のシワのより方からして、私が野球チームで他の子と仲良くしているのが面白くないのだろう。お母さん取られた子供みたいだ。

「だいじょーぶだいじょーぶ!私の相棒はテツ君だけだから!」

途端に眉間のシワが取れるあたり、まだまだ扱いやすい。

元気がないわけじゃない。ただピッチャーらしさと言うものを考えていただけだ。

チームメイトにボロカス言われたその夜、お父さんに聞いてみた。すると「チームを引っ張る存在で表の大黒柱だな!」とのこと。そして何を勘違いしたのか「堂々としてれば大丈夫だ!ピッチャーだけのせいじゃないぞ!」とも言われた。…別に自信を失ったわけじゃないんですけど。

学校の図書の時間、野球の本をかたっぱしからさらっと読んでみた。本も、図鑑も、漫画も。その隣でテツ君は囲碁の本を読んでいた。
将棋だけでなく囲碁も興味が出たらしい。私も彼のために少し勉強しなくては。

本や漫画を読んで分かったことは作中に出てくるピッチャーは我が強く俺様で自信家なイメージが多かった。ふむ、と一旦整理してみる。少年たちはこういうのを読んで野球を始めた子も中にはいるのかもしれない。それならこれに準じてみれば正解が出るのでは。

チームを引っ張る大黒柱という自覚をもちつつ、堂々と、自信満々に…そう意識した結果…


次の週の練習試合前、チームメイトを集めた。

「あのさ、今まで我慢してたけどもう辞めるね」

突然の宣言に少年たちは首をかしげる。私は渾身の"偉そうなポーズ"をしてみた。腰に手を当てて少し仰け反り相手を見下すように。このポーズ、実は昨日の夜に姿見で練習した。

「私がエースなんでしょ?この間も散々言ってくれちゃって…けどそう言うならワガママ言いまくるけど?」
「お、おう…」

ニヤリと笑って見せると、少年たちは少しずつワクワクした表情をし出した。やっぱり、作戦成功。これで正解らしい。…正直少し慣れないけれど。

「眞白さん無理してません?」
「んなわけない、伸一郎君に遠慮してただけだから」

年下キャッチャー君は観察力が鋭いらしい。未だ怪しげに私を見ていた。要注意だな。

「今日の試合楽しみにしててよ」

目が合うと彼は驚いたように目を見開いていた。うん、やっぱりこの子目が可愛い。