女だと、なめられればなめられるほど付け入りやすくなる、打ちやすくなる、そして何故かチームの士気も上がる。
それだけになめてこない子は要注意だった。
「ツーアウトー!」
打席に入る前、キャッチャーをちらりと盗み見る。この子は前にも戦ったことがあるメガネキャッチャー君。
キャッチング上手いしキャッチャー一筋でここまで来たのだろう。張り上げる声はまだ幼く、瞳がキラキラ輝いて眩しい限りだ。まあ顔整ってるし将来イケメンになるだろうな。
最終回6回裏、ツーアウトランナーなし、同点。カウントはフルカウント。
ここで打てなきゃ四番じゃないというこの場面。
周りを見ると皆必死に応援していた。テツ君もマサ君もいつもありがとね。伸一郎はそんな顔すんじゃない。ますますチワワっぽいでしょうが。
深呼吸をしてバットを見つめる。このメガネキャッチャー君には悪いけど四番の仕事はきっちりこなさせてもらおう。
「お願いします!」
右足の違和感を無視して打席に入った。
「あそこでホームランとか出来過ぎなんだよ!眞白さんは!」
「伸一郎、落ち着いて」
「良いとこ全部持って行きやがって!」
「まあまあ」
「つーか!右足の挫いてんの隠してんじゃねえよ!」
「それはしょうがないでしょ?あそこで打てるの私しかいないし」
「むーかーつーくー!」
結果私がホームランを打ち、サヨナラ勝ち。出来すぎたシナリオである。ただ次の試合は私は登板させてもらえなさそうだ。
今日も3回からしか投げさせてもらえなかったというのに。まあリトルは厳しい球数制限があるから仕方ない。
帰り支度をしていると後ろから声をかけられた。
「あの…怪我してたんですか?」
振り返るとあのメガネキャッチャー君だった。マスク被ってないと余計に可愛さが際立つ。
「大したことないよ。伸一郎が大げさなだけだから心配しないで」
極力笑顔を絶やさず、元気そうに答える。すると彼はほっと一息吐いた。
「良かったです…あの!凄い良い球でした!その球捕れるキャッチャーが羨ましいくらいです!」
「あ、ありがとう…」
くわっと顔を近づけて来た少年は思った以上の熱量で思わずたじろぐ。この子も伸一郎と変わらずキャッチャーバカだ。
「名前聞いても良いですか?!オレは御幸一也です!」
「田之倉眞白、よろしく」
「またよろしくお願いします!」
けど敬語も使えるし言葉遣い悪くないしこっちの方が可愛いかも。例えるなら芝犬。
しかしこの少年は将来、腹黒性悪キャッチャーとして活躍するのだが、この時の私は知る由もない。