テツ君とは別々の中学に進むことになった。テツ君は赤堂中学へ、私は近所の女子校へ。この学校はお母さんの母校らしくお父さんの強い希望の元、通うことになった。
卒業式当日。桜が舞い散る中、卒業証書と紙袋を手に持ち校内を歩き回る。先生方やクラスメイトに別れの挨拶は済ませたし、残るは彼のみ。
彼は一人図書館にいた。ここは窓から桜がよく見える。
「テツ君こんなとこにいたんだ」
「去年、シロがここか見る桜が綺麗だって言っていたのを思い出してな」
微笑を浮かべるテツ君の背後では桜吹雪が舞い上がった。今日風強いし桜全部散らなきゃいいけど。
「これ、卒業祝い」
手に持っていた紙袋を渡すとテツ君は目が溢れんばかりに見開いた。
同い年だし不自然かと思いやめようとしたが、老婆心からか、やはりどうしても何かあげたくてお小遣いを駆使して買ってしまった。
「開けていいか?」
「もちろん」
テツ君はガサガサと紙袋の中から取り出す。マジマジとそれを眺めている所を見るとそれがどういうものか分かってないらしい。
「これは…」
「それ、バッティンググローブっていうの。テツ君中学から野球始めるって言ってたし丁度いいかなって。本当はグローブとかあげたかったんだけど…ちょっと厳しくて…」
彼が野球を始めるその時、見守ってあげられない代わりにと思い選んだのだ。上京する息子を心配する母親の気分。
テツ君の様子を伺うと喜んでくれているみたいだった。良かった、引かれなくて。バッティングセンター行くの我慢した甲斐があった。
「オレはシロに何も用意してない…悪い…」
「良いって、私が自己満であげたかっただけだし」
「大事にする」
「ちゃんと使ってよ?」
「………」
「おーい?勿体無いからって机の奥に眠らせてたら意味ないからね?ちょっと?テツ君?無視しないでもらえませんかね」
相変わらず頑固な事で。いつかこのグローブに出番が回ってくるといいけど…この様子だとしばらく余韻に浸りそうだな…
「さ!行こう!校門でマサ君とお母さんも待ってるよ!」
「ああ」
…近くにいすぎて最近まで気がつかなかったけれど、この子この歳にして喋り方が大分渋いよな。きっと時代物の見過ぎだ。
テツ君の後に続いて図書室を出る。そういやテツ君身長伸びたな…そろそろ追いつかれそうだ。この学年で私が一番背大きかったのになー四月生まれだし。
こうして彼はドンドン大人になっていくんだろう。少し寂しいと感じてしまうのは子離れできていない証拠だろうか。
「ん?どうかしたか?」
「んーん、これからはテツ君と一緒に登下校できないのかーって寂しくなっただけ」
途端、テツ君は顔を真っ赤に染め上げた。こんな事でこんなになっちゃって…私にとってはまだまだ可愛い男の子であることに変わりはないのだ。