シニアに入るとリトル以上に冷遇を受けた。中学生になると男女差があらわになり、以前のように圧倒的な実力差で黙らせる事はできなくなった。
自己紹介の時、「どこでも守れます」と答えると隣に並んでいた体格の良い男の子に「こいつリトルでピッチャーやってました」と告げ口された。
その男の子はキャッチャー希望らしい。…同年代だからだろうか、伸一郎のような可愛さも御幸君のような可愛さもない。ほぼ同じ目線から凄まれると迫力がある。
特に彼には嫌われている気がする。何もしてないはずなのに。いや、女という時点でダメなのか?
まあどうせブルペンからプレッシャーかけるくらいしか使ってもらえないだろうし、気にしてない。
練習終わり、同じリトル出身の子たちと話しながら帰り支度をしているとその男の子にすごい目つきで呼び止められた。確か名前は原田雅功君。うん、怖いよ?一人ヤっちゃったみたいな目してるよ?
「おい、田之倉」
「眞白でいいよ、監督も皆んなそう呼んでるし。私も雅功君って呼ぶし」
「君付けはやめろ…眞白、球受けさせろ」
「………多分実戦で登板する事ないだろうから君には必要ないと思うけど」
今日の体力測定を見ている限り、彼は直ぐスタメン入りを果たすだろう。それくらい抜きん出ていた。ミート力もあるし、肩も強い。ポテンシャル祭りだ。
それにしても最近の子は君付けが嫌いなのだろうか。よくわからん。
そんな彼と女である私が組む事はまずない。だから練習も正直必要ないと思った。しかし彼は私の言い分なんか聞いてなかったかのようにブルペンに向かっていく。
「いいから来い」
少し離れたところから監督が腕を組んでこちらを伺っていた。なるほど、そういうことね。
リトル時代の仲間も見守る中、私もブルペンに上がりスイッチを切り替える。
「お手並み拝見ってとこだね!あんだけ偉そうに言ったんだから球こぼすわけないよね?これでこぼしたら見ものだなあ」
「…テメェ」
「ほーら!投げるから早く座ってよ!体冷えちゃう!」
「噂通りの二重人格っぷりだな」と呟いていたのは聞こえないふりをする。色んな人にリトル時代から"二重人格ピッチャー"って言われてるのは知っている。それでチーム引っ張れてたんだから儲けもんでしょ。
もうやらなくて良いんだろうけどリトル時代の仲間がここにもいるし、このキャラは貫くべきだろう。それにこのキャラにならないとまともに投げられないのもまた事実。
ど真ん中、ストレートに構えられたキャッチャーミット目掛けて白球を投げ込んだ。