口の悪い子ほど

「そういえば、雅功って私のことなんで知ってたの?」

パシンと乾いた音と共に手元にボールが収まる。それを軽く握って投げた。
中学二年生になり、監督は少しずつ私を試合に出してくれるようになった。ほぼバント要員だけど。
それに比例して何故か雅功とのキャッチボールをする率も高くなってきた。

「知ってるも何もこの辺住んでる奴なら普通知ってる」
「えー…」
「多分監督も知ってたぞ」
「うっそー…」
「嘘じゃねえよ」

軽くショックだ…そんなつもりはなかったというのに。女というだけでそんなに目立つのだろうか。それとも美少女だから?…それなら仕方ない。

「お前さ、何でシニアでも野球やろうと思ったんだ。女子ってリトルで辞める奴多いだろ」

それは初耳である。おそらく彼の狭い世界での見聞による偏った知識なだけなのではないか。まあそこはどうでも良い。

「リトルのチームメイトとまだ野球がやりたかったから…かな」
「…そうかよ」

本当は共にプレーしたかったというより見守りたかったに近い。それなら言葉通りただ見守るだけでも良かったのだが、チームメイトという距離感から何か助けになれるのではないかと考えた結果だった。マネージャー的存在なら彼らの母親が務めてくれているから必要ない。

「そろそろ投げるぞ」
「雅功が?」
「ナマ言ってんじゃねぇ」
「…だからもう少し言葉遣い気をつけなさいって」
「うるせぇな、眞白は俺の母親か」

あながち間違いじゃない。とは口に出さない。

「でもそろそろ雅功、帰った方がいいんじゃない?ここから遠いんだし、親御さん心配するよ?」
「ここまで準備しといてガタガタ言ってんじゃねぇ」

伸一郎並みに口悪いと思ったけれど、雅功の方が格段に口が悪い。最近の中学生、迫力ありすぎじゃないだろうか。

グラウンド付近にある時計で時間を確認する。…30球くらいかな。この間も帰すの遅くなっちゃったし。保護者的立場からしてそこら辺はちゃんとしなくてはならない。保護者じゃないけど。

白球を握り、スイッチを切り替える。

「今日は何球こぼすかなー?」
「さっさと投げろ!」


予定通り30球で終了。雅功が渋ったけれどそこは譲れない。自転車で帰る彼を見送り、私はランニングしながら帰った。

家に帰ると案の定誰もいない。最近またお父さんは帰りが遅い。
電気をつけてリビングに行くとラップをかけられた二食分の料理が並んでいた。鳴ママ、来てくれたんだ。

その隣に青い塊があるのに気がつく。なんだろうと近づいてみると、それは携帯だった。

挟まれていたメモに「眞白ちゃんも中学生、何かあった時のためにもこれ使ってね。お父さんも了承してくれたから大丈夫よ」とのこと。

開いて電源をつけると設定は全て済んでおり、電話帳には親戚の名前がズラリと並んでいた。きっと鳴ママが登録してくれたのだろう。正直いらないけど。
その中に鳴の名前もあり、少し微笑ましくなってしまった。