過信はしていない

練習試合開始の時、チーム同士一礼をした頭上で「あ」と声が聞こえた。
顔を上げるとそこに居たのはいつかのメガネキャッチャー君。確か名前は御幸一也君。大分大きくなっていて正直思い出すのに苦労した。

特に何か言う暇もなく私はベンチに下がる。彼は向こうのベンチで少し驚いた顔をしていた。


最終回の7回表、0対0でワンナウト満塁。ピリピリする空気の中、私は代打で出された。

「お願いします」

一礼してバッターボックスに入る。その直前御幸君と目が合った。こらこら、ニヤニヤするんじゃない。

守備位置は前進守備。定石通りスクイズ警戒されてんのかな。それに外野も前進守備だし長打はないと思われてるのだろう。

1球目。少しかぶさって構える。アウトハイのボール。ピッチャーの表情は強張ったまま。そうだよねー、だってこの満塁ほぼほぼ君が作ったようなもんだし。気負うのも仕方ない。

2球目。モーションに入ってからスクイズの構え。すると外してきてアウトローのボール。

3球目。次もアウトローのボール。キャッチャーの動きからして逆球だろう。それほど相手ピッチャーに力が入っているのがわかる。

「小太郎!」

三塁にいた小太郎君に声をかけて適当なサインを出す。当の小太郎君はよく分からないまま了解の意味でメットのツバを握った。ベンチを見ると監督が面白そうにこちらを見ている。

4球目。ワンバンしてインローのボール。フォアボールで押し出し初得点。

ベンチが盛り上がる中、私は一塁に進む。ガードを外しながら相手バッテリーに頭の中で頭を下げた。

ピッチャーの子が一年生かつ、リリーフしたばかりだったため、そこに付け入らせて貰った。精神面で揺さぶりを掛けたくて卑怯な打席になってしまったのは仕方ない。次は四番の雅功だし任せたかったのもある。

ただ雅功はたまーにポカする。監督はそれを危惧して保険として私を代打で送り出したに違いない。加えて不思議なことに私が代打で出ると雅功の打率が格段に上がるのだ。

ガードをチームメイトに渡す時、雅功と目が合った。そんな嫌そうな顔しないでほしいなあ。


「てめぇ…イヤらしいバッティングしてんじゃねぇぞ」

攻守交代の際、雅功のレガース取付を手助けしていると怖い顔で見下ろされた。

「その後ピッチャーが崩れてくれて雅功がホームラン打てたんだからそんな顔しないでよ」

チッと舌打ちをされて雅功はホームベースに駆け寄っていく。一応、監督から四球待ちの許可取ってたし…それに私が下手に打ったらゲッツーの可能性もあったし…

彼が何故不機嫌になってしまったのか理解できず、ベンチで首をかしげた。