「どう?これが我が校誇るグラウンド設備よ。幼い頃から球場やキャンプ地に出入りしていた田之倉さんにとっては物足りないでしょうけど」
結局、押しの強い高島さんに押し切られ青道高校野球部の野球場に来てしまった。
しかしこの人…なんでも知ってるな…もしやお父さんとも秘密裏に連絡取ってるんじゃないだろうか。
二面のグラウンド、ブルペン、室内練習場、青心寮という寮。マシーンも沢山あり十分な練習ができる環境だった。
「少し投げてみる?」
ブルペンを見学している時、高島さんは不敵に笑った。
「いえいえ、私はここに入ったとしてもプレーヤーではなく支える側ですからその必要はないですよ」
「あらそう?今とても投げたそうな顔してるわよ?」
え、と思わず両手を顔に当てる。ポーカーフェイスには自信が有ったのに。
「目は口ほどに物を言うという事よ」
フフフと笑う高島さんには一生敵いそうにない。あれ、私人生二度目のはずなんだけどな。
その後、監督に挨拶をして校舎の見学に移った。
監督はとんでもなく強面だったが生徒一人一人を大事にしているのがよく分かる人だった。じゃなかったら入るか定かでない、私なんかにわざわざ声をかけたりしない。
高島さんに「ぜひウチの青道野球部に」と念押しされてその日は帰宅した。
元々青道高校は受けるつもりではいた。ただ行きたい高校は他にもある。それはお母さんの母校である稲城実業。
特にこれといった希望がないため、お父さんが喜ぶ道を選びたい。娘の中身がこんなおばさんである事への贖罪からか、お父さんの期待には全て答えるように今まで生きて来た。言われなくてもなんとなく察して行動することもしばしば。
どうしたもんかな。
「眞白!ボーッとしてんじゃねぇ」
「はーい」
「気ィ抜けた声出すな」
声くらい気を抜かないとやっていけないって。ほらほら眉間に皺寄せてると癖になっちゃうぞ。
「無理やり眉間のシワを伸ばすな!」
「雅功の未来のためだから!」
「何言ってんだテメェは」
だから怖いよ、その顔。
中学三年生に上がりシニア最後の年。その年になると同年代のピッチャーが力をつけ始め、私の出る幕はほとんどなくなった。バントも皆上手くなったし。
出番があるとしたら雅功が調子悪い時。未だに私が出ると打率がアップするのは変わらない。なんなんだろうね、この不思議な現象は。
高島さんはその後も、度々私の家を訪れてラブコールを送り続けてくれた。そして案の定、お父さんも一枚噛んでいたのを知ることとなる。
夜、高島さんが帰った後、お父さんは悪戯小僧の様に笑った。
「眞白は美人に弱いもんな」
あんたに言われなくない。