ロードワークから帰ると家の明かりが点いていた。汗をぬぐいながら玄関に入る。鍵開きっぱなし。
「鳴、また鍵開いてるよ」
「えっごめーん」
「危ないから気をつけてっていつも言ってるでしょ」
「はいはい、次から気をつけるってば」
居間に行くとテレビを見ながらアイスを頬張る鳴の姿があった。だからそのアイス、お父さんのだからね。
「ねえねえ、腹減った〜」
「今用意するから手伝って」
「はいはーい」
今日の夜ご飯はカレー。よそって席に着くといつの間にか鳴は先に食べ始めていた。頬張るその姿が可愛くて仕方ない。
「眞白さあ、青道行くの?」
私の部屋の机の上に青道のパンフレットを置きっぱなしにしていたのを思い出す。女の子の部屋は無断で入るなって教育し忘れた。
「いや、まだ決めてないよ。鳴は決めてんの?」
「オレは稲城実業!シニアの強いメンツ集めて最強のチーム作るつもり!」
この顔はもうすでに根回しをしているに違いない。意外と社交性高いしカリスマ性もある。侮れないなあ。
それに稲実に鳴が行くなら迷いは吹っ切れた。
「そっか、なら私も決めた」
「え?!本当に?!」
この会話で大きな誤解を生んでいるのだが、それに気づくのは少し経った後。
「ほら、おばさん心配するからもう帰りなよ、駅まで送るから」
「泊まっちゃだめ?」
「だめ」
「けち〜」
駄々をこねる鳴をなだめつつ駅まで送り届けた。
ついでに近くのスーパーで牛乳を買う。レジが終わり袋に詰めていると近くに人が立つ気配がした。
振り返るとテツ君だった。
「あれ、テツ君。なんでこんな所に?」
「使いを頼まれてな」
そう言って右手に持っていたビニール袋を掲げて見せた。そして私の荷物を横から奪って先に歩き出す。
こんな紳士的な事、できるような子だったっけ。成長が嬉しくて顔が緩んだ。
「ありがとね」
「問題ない」
「途中まででいいよ?」
「良い、送らせてくれ」
「いや夜遅いし危ないから早く帰ってくれると私も安心なんだけど」
「危ないのはシロも一緒だろ」
そう言われてしまったら何も言い返せない。大人になってきたなあとしみじみ感動してしまう。お母さん嬉しい。お母さんじゃないけど。
「テツ君は高校、どこ行く予定?」
「青道高校だ」
「そっかー」
「シロはどこ受験するつもりなんだ?」
「………ひーみつ」
にっこり笑って彼を見上げる。すっかり身長は越されてしまった。人の子の成長は本当に早いとつくづく感じる。
いつも表情が硬いこの子の驚いた顔が久しぶりに見てみたくなった。