シニア最後の夏大前、最後の練習試合の相手は関東大会常連校の丸亀シニア。強豪チームとして名が知られ、御幸君情報によると滝川君という四番キャッチャーが凄いらしい。他にも白河君という二年生も好打者と聞く。
挨拶の時、目の前がその滝川君だった。一礼した後、「よろしく」と爽やかに言い残して行く。うわーイケメンだ。ただ私をなめてかかって来ないあたり侮れない。今日はもし出番が回ってきたら楽しめそうだ。
私の出番が回ってきたのは七回裏。ツーアウト満塁。ネクストには四番の雅功。ここで二点以上取れればサヨナラ勝ちという場面。
これはおそらく雅功まで確実に回せという事だろう。こんな場面を任せるなんて監督も鬼だ。私も人の子だぞ。人生二度目だけど。
初球からストライクを取りにアウトローのストレート。しかしコントロールがズレたのか見送るとギリギリのボール球だった。もうけ。
二球目、スローカーブ。これも見送る。
三球目、ボール先行しているから次こそストレートくるだろう。迷わずバットを振り当てて行く。ファール。
四球目、次もストレートを取りに来るに違いない。バットを振ってまた球に当てる。当てるだけならいくらでもできる。
五球目、スローカーブ。これを見送れたのは大きい。フルカウント。ここからが勝負だ。
そこからはストレート一本で押してくる強気なリードに押されつつもファールを出し続ける。たまにキャッチャーがボールを追いかけて飛び込み、アウトになりそうになるもののなんとか取られずに済んだ。この子、意外と怖いもの知らずだな。
「ボール、フォア!」
やっと四球で押し出し得点。あとは頼んだぞ四番。ピッチャー、今の打席で大分疲弊してるし。
雅功は見事ヒットを放ち、私たちチームはサヨナラ勝ち。あの強豪チームに勝てたのはこの子たちの粘りがあってこそ。
地味に感動していると終わりの挨拶で目の前にいたのは赤髪の男の子。片目が隠れていて鋭い目が迫力ある。
「あんた投手のくせにああいうバッティングも出来るとか嫌味かよ」
「白河君には敵わないよ」
彼はボソリと呟いた言葉を拾われると思っていなかったのか目を丸くしていた。それとも名前を知られていて驚いたのだろうか。きっと両方だな。
笑顔を見せるとますます嫌そうな顔をされた。美人なのに台無しだ。
後ろで雅功が呼んでいたため、踵を返してベンチに向かおうとした時。
「今度は田之倉さんの球を打って見たいな」
滝川君が白河君の後ろから現れた。爽やかな笑顔は健在で負けたことを露ほども悟らせないほど。
「打てるなら」
今度は口角を釣り上げて挑戦的に相手を見る。白河君は一瞬たじろいだけど滝川君は爽やかなままだった。
それにしても良く皆んな私が投手だって見抜けるな。