夏大初日。球場の外でストレッチをして体を温める。今日も今日とて気温は高い。チームメイトの子たちが熱中症にならないよう、目を光らせないと。
「雅功ってどこの高校に行くの?」
「稲実。そういうお前は?」
「青道高校」
「…テメェは一般入試だろうが、なんでそう言い切るんだよ」
「決定事項だからだいじょーぶ」
「何がどう大丈夫なのかさっぱり理解できねぇ」
有言実行、言霊の力。言って損はないと思う。たまに不言実行の時もあるけど。
雅功は稲実か。2年後には鳴と共にバッテリーを組んでいるのかと思うとなんだか面白い絵面だ。雅功が鳴をしばいている姿が目に浮かぶ。
「これから試合なんだからそのニヤけた面しまえ」
「いたいいたい」
だから頭ぐりぐりはやめて欲しい。
その日の試合は危うげなく勝つ事ができた。
トーナメント表を確認すると滝川君と鳴のチームは駒を進めていた。御幸君と伸一郎のチームは惜しくも初戦敗退。まあ彼らは来年もある。
私が野球出来るのはこれで最後。決勝戦ならお父さんも観に来れると言っていた。そんな機会、最初で最後。親孝行のために何としてでも勝ちたいと決意を固めた。
しかしそれは叶うことはなかった。準決勝、強豪チームに敗れてしまったのだ。
その負けた最後の試合、マサ君のリトル最後の試合と被ってしまいテツ君は見にこれなかったが、御幸君や伸一郎、同じく準決勝で敗れた鳴は見に来てくれた。
私の出番は一回代打で送られたのみ。得点が絡まないヒットを打ち、それ以降はベンチで応援することしか許されなかった。
「野球辞めるのか」
夏大の決勝戦を観戦した後、雅功に誘われ河川敷でキャッチボールをしていたらそう言われた。
雅功は準決勝後、人目から逃れるようにして珍しく涙を流していたのを思い出す。
「マネージャーとして続けるよ」
言葉を返すと同時にボールも投げ返す。夕焼けの日差しが少し眩しくて目を細めた。
雅功はいつになく真剣な表情だ。ぶっきらぼうだけど根は優しいのが彼のいい所。これから言われる言葉を想像して心が温かくなった。
「たまに球受けてやるからトレーニングサボんじゃねぇぞ」
「敵のマネージャーに塩送ってどうすんのよ」
ケラケラ笑い飛ばそうとするのに彼はそれを許してくれない。優しすぎるのもほどほどにして欲しい。
「球受けるくらいどうってことねぇだろ」
「…三年間ありがとね」
「まだ卒団試合があんだろーが」
「……あ、忘れてた」
「おい」