ご飯を食べて

御幸君はすっかりお父さんの話で緊張が解けてしまった。せっかく男子中学生を堪能していたというのに。…なんか言い方が変態くさいのは気にしない方向で。

「あれ、この辺は眞白さんの?」
「そうそう」
「へえ…眞白さんって足も速いんだ…」
「そんなの見てないでこっちおいで、お菓子あるよ」

チラリとこちらを見るもののまた前に向き直ってしまった。なんか今、嫌な顔してなかったか。

「眞白さん、気を逸らそうとしても無駄無駄。こういうのって見られると恥ずいもんですよねー」

ニヤニヤするな。この子本当に性格がキャッチャー向きだ。ただ友達ができなさそうでもある。
お菓子の次は高島さんにも見せたノートを餌にしてみることにした。これなら釣れる自信がある。

「じゃあこれは?」

ズラリと机に並べる。何冊かなんて数えきれない。ページをめくって見せると御幸君は固まった。そして次の瞬間には食い入る様にノートを見始める。

テツ君に初めて見せた時は首をかしげるだけだったのにえらい違いだ。まああの子は数字を見てどうこう考えるタイプじゃなく、迷ったらバットを振るタイプだからなあ。

御幸君は一心不乱にノートの端から端まで見続けている。これは時間がかかりそうだ。
「この記号は?」「この数字が大きいとどういう意味?」など、度々ノートに関する質問に答えつつ、私はお昼ご飯の支度に取り掛かる。今日のお昼は御幸君リクエストのオムライス。

鶏肉多めで卵は二個使いが我が家流。二人ぶんより多めに作るには冷蔵庫にあるご飯だけじゃ足りなさそうだ。すぐに炊飯器のスイッチを入れる。

その後付け合わせのサラダも作り、完成した頃には12時を回っていた。ケチャップで野球ボールのマークを書いたら完成である。

「御幸君」

案の定、集中していて声が届いていない様子。仕方なく御幸君側に回って顔を覗き込む。それにしてもこの子まつ毛長いなあ。

「御幸くーん」
「へ?うわっ!!!」

彼は慌てて仰け反った。うん、可愛い。初々しい。どっかのワガママ姫にも見習ってもらいたい位だ。

「一旦それあっちに置いといて。ご飯できたよ」

テーブルに出来立てのご飯を並べると御幸君はキョトンとした顔で私を見上げた。瞬時に彼がこういった事に慣れていないのだろうと悟る。まあそういうことだ。

「お口に合うと良いんだけど…いただきまーす」
「…い、いただきます」

その日のお昼ご飯は思いの外静かだった。