一人前になるまでは

部活初日、マネージャー業務を次々と叩き込まれた。藤原さんとメモを取りながら必死で食らいつく。さあ、のんびりしている暇はない。少しでも早く覚えなくては。

部員達の練習が終わった頃、マネージャーもようやく解放された。

「やる事たくさんあってびっくりしちゃった…」
「だよねえ」
「私やっていけるかなぁ…」

先輩マネージャーさん達が先に帰った後、藤原さんと二人で自主練をする先輩達を眺めていた。
ふと隣を見ると固い表情を浮かべていた。美人だとそんな姿も様になる。
そんな彼女の頭を優しく撫でた。

「だいじょーぶだいじょーぶ!まだ初日だし。先輩達もいきなり全部できると思ってないって!気楽にいこうよ」

励ましが届いたのか、藤原さんの表情は少し柔らかくなった。

「田之倉さんってお母さんみたい」
「困ったことがあったら何でも相談してね」
「……じゃあ…一ついいかな」

朗らかに笑っていた表情から一変、藤原さんは少しうつむき気味になる。少し頬が赤い。

「なーに?」
「私、田之倉さんの事、#name4#じゃなくて眞白って呼んでいい?」

おずおずと話す美少女を抱きしめたくなる。なんだこの可愛い生き物は!

「もっちろん!私も貴子って呼んでいい?」
「うん!」

はー…癒し。可愛すぎる。こんな子と三年間過ごせるなんて夢のようだ。


「ってわけ。良いでしょー。あ、体の開きが早いよ」

寮の裏で素振りをするテツ君は真剣そのもの。寮裏で300、家で200、毎日素振りをするらしい。その内の寮裏の方を見る約束をした。

単調になるのもあれかと思い、世間話をしていたつもりが何故か彼のスイッチを押してしまったらしい。背後にメラメラと炎が見える。

「俺はシロと呼び続ける」
「…何に対して対抗心燃やしてんの」

…高校生にもなってまだ言うのか。母親離れできてないようだ。母親じゃないけど。まあ少し前まで中学生だったわけだからほぼ中学生みたいなもんか。

「終わったら送る」
「初日だし疲れてるでしょ、明日もあるんだから早く帰って寝なさい」
「だが」
「それ言うなら一人前になってから言いなさい、はい、重心外に逃げてるよ」
「む………」

またメラメラ燃えてる。単純だなあ。

中学で彼の野球を見てあげられなかったかわりに高校では精一杯見てあげよう。けどなんか練習見てるとマウンドのスイッチが半分入ってしまうのは何故だろう。

「ラスト100ー…ヘッドが寝てる、左脇閉めて」

無心で素振りをするテツ君はもう幼稚園の時のような面影はない。カッコよくなっちゃって。ヘニャリと頬が緩んだ。