懐かないポメラニアン

ちょっと距離が近すぎやしないだろうか。目の前の彼を見上げる。座っている私は自然と見下ろされている上、相手は意図してメンチを切っているのだから圧が凄い。
それでもポメラニアンに見えてしまう。ちょっと可愛い。

「伊佐敷君、そろそろ授業始まるよ」
「………」
「戻った方が良いんじゃないかな」
「………」

取りつく島もない。こんなに根に持たれるとは思ってなかった。どうしたものか。頭を悩ませていると予鈴が鳴った。

「チッ…逃げんじゃねーぞ!オラァ!」
「うん、次も教室授業だからここにいるけど」
「テメェ…その面いつか剥いでやる!覚悟しろ!」

そう捨て台詞を残して彼は去っていった。私の周りからはサッと人が離れる。あれ、これは友達できないフラグでは?

「入学早々、変なのに目付けられちゃったね」

後ろの席から声がした。振り返るとピンク頭の小湊君だった。大きくなって…と一人で感慨にふける。最後に会ったのがリトルだったせいか大分大きくなったように見えるが世間一般ではまだまだ身長が足りないのだろう。練習中は練習着がブカブカで可愛らしい姿になっていた。

「うーん…まあ…可愛いから平気」
「は?」

小湊君は心底理解できないらしく「目悪いんじゃない?」とまで言ってくる。この子見た目によらず毒舌だな。まあ保護者目線で見てしまうから同年代でも可愛く見えてしまうのだから仕方ない。

「もしかして猫被ってるんじゃなくて二重人格ピッチャーって知らないんじゃない?」

ケラケラと笑う彼から腹黒さしか伺えない。この言葉を直接ぶつけて来たのは御幸君に続いて二人目だ。

「俺も対戦したことあるんだけど覚えてる?リトルの時」
「え、小湊君覚えてるの?」

驚いた、幼少期ってあんまり記憶力良くないのではなかったのか。瞬きを繰り返していると彼はにっこり微笑んだ。

「普通女の子にあそこまでコテンパンにやられたら忘れたくても忘れられないから。トラウマレベル」

彼の笑顔に影が差す。背筋がゾワっと寒くなった。

「ごめんね…」
「謝っても意味ないから」
「はい…」

この子は怒らせちゃいけない。そう決意した。


次の休み時間もその次の休み時間も隣のクラスの伊佐敷君は、わざわざ私にメンチを切りに来た。
いつか飽きるだろう、そう思ってしばらく放置する事にした。

「………」
「増子君、クリームパン食べる?」
「うがっ」
「良い加減虚しくなんない?」
「ほっとけ!」
「伊佐敷君もクリームパンいる?」
「いらねぇ!舐めてんのか!」

本当にこの子と打ち解けるにはどうしたら良いのだろう。最近の悩みはもっぱらそれだった。


「テツ君はどうしたら良いと思う?」
「…もう一度勝負するのはどうだ」
「そんな時間ないよ…あ、また脇開いた」
「む…」

いつも通り夜の素振りに付き合う時、テツ君に聞いてみたが何の解決にもならなかった。
あと彼に家まで送ってもらえるのは大分先になりそうだ。