朝のランニングで東先輩に挨拶をし始めて一週間。私に対する彼の態度が変わって来た。
「#name4#!ドリンクが足りん!」
「すみません!今持って来ます!」
「#name4#!ボックスはよ持ってこんかい!」
「すみません!今直ぐ行きます!」
「#name4#!ジャグが空やぞ!」
「すみません!今足します!」
これには先輩マネージャーさんや部員達も困惑し、先輩方が一言言ってくれたのだが「外野は黙っとれ!」とのこと。
実際、彼が言っているのは間違っていない。加えて彼の発言力の高さが災いし、誰も強く言えないのだ。
ただマネージャーは一人じゃない。毎度私を指名しなくてもいいんじゃないか。毎朝の挨拶が気にくわないのだろうか。…東先輩から言いだしたのに?
普通のマネージャーだったら絶対辞めてるぞ。というか途中で泣き出すレベル。
ただ東先輩が私を毎日「#name4#!」と呼びつけるせいであだ名が先輩達を筆頭に染み付いた。それに二年生は申し訳なさからか、一年マネに対し無駄に優しい。これは思わぬ収穫である。
そして収穫といったらもう一つ。伊佐敷君がガンを飛ばしてこなくなった事。私が先輩にイビられ過ぎて同情してくれているのだろうか。
正直に言えばちょっと寂しいけど。
「#name4#って東先輩に何か嫌われることでもしたの?」
「それが全く身に覚えがない」
「のわりに元気だよね」
「スタミナは自信あるから」
「そうじゃないんだけど」
小湊君、そんな顔しないで。
ここで泣き言を言わないのは人生二度目の意地だ。声をかけてもらえる内が花。そう分かっているからあまりダメージがない。言われているうちにできるようにならねば。
それに部活が終わると貴子はいつも心配してくれるし癒しはそれで十分。あとテツ君の素振りを見るのでも癒されてる。
「#name4#!氷が切れとるぞ!言われる前に何とかせえ!」
「すみません!今取ってきます!」
「#name4#!たらたら歩いてやる気あるんか!グラウンドからつまみ出すぞ!」
「すみません!」
怒鳴られようと今日も笑顔で頑張ります。
「君、田之倉眞白さん…?」
ふと声をかけられ、振り返るとハンチング帽を被った男性と髪の長い女性が立っていた。
たしかこの人たちは月刊野球王国の記者さんだ。
「はい、そうです。峰さんと大和田さんですよね。いつもお世話になってます」
ペコリと頭を下げる。彼らも会釈を返してくれた。それにしても何で私のこと知ってるんだろう。
「この子…どこかで見た事あるような…」
「そりゃあそうだろ、シニアで投手として一躍話題を集めたからな」
「ああ!あの子ですか!」
なるほど、そういう事か。大和田さんと共に私も納得してしまった。確かに私なんか格好のネタになるだろう。
その時、遠くで東先輩の怒声が聞こえた。絶対私を呼んでるに違いない。
「引き止めて悪かったね、今度正式に取材を依頼させて貰うよ」
「色々お話聞きたい!美人マネージャーって特集組めますね!」
「では失礼します」
私より選手の取材してほしいなぁと思いながらグラウンドに向かって走り出す。
その後、その場にいた記者さん達も会話を耳にしていた様で取材依頼が殺到。もちろん監督にお願いして遠慮なく断らせて頂いた。