頼られたい

「得点入ったら黒丸、アウトならローマ数字、残塁ならこう。ここまで大丈夫そう?」
「うん、平気よ」
「なら次行くね」

今昼休みの時間を使って貴子にスコアブックの付け方を教えています。なんて至福の一時。

「教え方意外と上手い…」
「別に普通じゃね?」
「む、ノートも綺麗だぞ」
「なら試験の時お世話になりそうだね」
「なんで俺を見んだよ!」

後ろでヒソヒソ聞こえるのは無視だ無視。
君たち小声で話してるけどその距離じゃ聞こえるからね?
特に伊佐敷君。小湊君は聞こえるの前提で言ってそうで怖い。そして増子君、君食べ過ぎ。テツ君はいつの間に来てたんだろう。

私も高校になると勉強時間ほぼない上に難易度が高く人生二度目なんて関係ない。まあ赤点取られたら困るしちゃんとサポートさせて頂きます。


「やっぱこっちにいた」
「あ、楠木君」

教室のドアから顔を覗かせたのは楠木君だった。爽やかイケメンを体現したような子だ。彼は貴子に用事があったのかわざわざこのクラスまで来てくれたらしい。

「今日、日直で遅れるから監督に言っといて欲しいんだけど」
「わかったわ、伝えとく」
「サンキュー」

爽やかな笑顔を残して彼は去って行った。…あれ?と私は首をかしげる。

「貴子、いつもそういうの頼まれてるの?」
「いつもってわけじゃないけど…マネージャーだし…」
「私、頼まれたことないんだけど」
「えっ……」

そう、私は一年部員に業務連絡を頼まれたことが一度もない。もしかして避けられてる…?

「あー…知りたくなかった…」
「た、たまたまじゃない?」
「たまたま…うん、そういう事にしとこう」

うわーなんてこった。一年生に嫌われるなんてちょっと心が折れる。東先輩に認めてもらうより一年生に認めてもらうのを先にすべきだったか。いや、でもなあ…

俯きながら「辛いなー」と呟くと私の周りがシンと静かになった。不思議に思い、顔を上げると正面に座る貴子が目を見開いている。

「えっと…なんか変な事言ったかな…?」
「眞白の口から弱気な言葉が出たからビックリしちゃって…」

あまり言ってなかったっけか。まあ確かにそうかもしれない。だって人生二度目だし現役よりは余裕がある。

「俺も初めて聞いた…」
「俺も…」
「誰だよポジティブ怪物って言ってたの」
「#name4#も人の子だって事だね」

伊佐敷君、それ絶対君が言い出したやつだと思うよ。そして小湊君、それどういう意味ですか。

その後、その場にいた彼らを筆頭に意味もなく一年生が私を頼るようになってしまった。

「#name4#ー教科書貸してくんね?」
「シロ、数学のプリント写させてくれ」
「#name4#ー絆創膏持ってない?」
「#name4#、ノート見せて欲しい」
「#name4#ー何か食いモン持ってねぇ?」

君たち少しは自分で何とかしなさい。と喉元まで出かかったが何とか食い止める。ただ嬉しいのも事実。

業務連絡や報告は藤原、その他は田之倉へ。それが一年生の間であっと言う間に浸透した。

後から小湊君にワケを聞くと東先輩にコキ使われている私を不憫に思い、せめて部活以外は楽させてやろうと気を使ってくれていたらしい。
なんて可愛くて優しい少年たちなんでしょう。感動して小湊君の頭を撫でようとしたら弾かれたので、隣にいた増子君の頭を撫でさせてもらった。小湊君、笑顔が怖いよ。