春季大会の試合は直で見たかったが青道が早々に負けてしまったため、試合を観に行くのは少数精鋭に限られている。もちろん一年生である私が選ばれる事はなく、三年生の何人かが毎回ビデオやスコアを取っていた。
それらを分析してチームに生かすのはまだ三年生の役目。けれどジッとしているのも癪なので高島先生の力を借りてデータを集めている。
来年を見据えてしっかりデータを取らなくては。加えてマネージャー業、トレーニング、勉強。やる事が多すぎる。時間がいくらあっても足りない。
テツ君の素振りを見た後、高島先生からスコアブックやビデオを受け取る。誰もいない食堂で帰り支度をしているとガラリとドアが開いた。
「誰かと思ったら田之倉か」
なんと滝川君だった。お風呂上がりなのかタオルを肩にかけたままで髪から雫が落ちている。
ちょいちょいと手招きをすると滝川君は不思議そうに近寄って来た。有無を言わさずタオルを手に取ってワシャワシャと掻き乱す。
「おい、田之倉?!」
「ちゃんと拭かないと風邪引くよ」
「自分でできるんだが…」
「良いから大人しくしてなさい」
ピシャリと言い放つと滝川君は静かになった。…彼がアイリッシュセッターに見えてきた。可愛い。
あらかた拭き終わり、解放してあげると彼の頬には少し赤みが差していた。可愛い。
「そうそう、滝川君も#name4#でいいよ」
「なら俺もクリスと呼んでくれ」
にっこり笑う滝川君ことクリス君は本当に美人だ。ギリシャ神話に出てきそうな顔してる。
「ところでこんな時間まで何をしていたんだ」
ギクリと心臓が跳ねた。いや別に来年には分かることだし言っても問題ないんだけど…やっぱり驚かせたいし。
「ちょっと高島先生に英語の質問してたら遅くなっちゃって」
はぐらかす事にした。ただクリス君が怪しむ事なく信じてくれたため、少し心が痛む。
ふと寮の方から笑い声が聞こえた。誰かが怒鳴る声も聞こえる。寮生活って楽しそうだ。合宿になるとマネージャーも通いの人も泊まり込みになるそうなので今から楽しみである。
「今年の一年は不作と言われてるが…#name4#はどう思う…?」
物思いに耽っていたらクリス君が真剣な目でそう聞いてきた。
今年は不作の年。そう言われるのは能力テストで二軍に上がれたのはクリス君たった一人だったから。彼はおそらく関東大会が始まる頃には一軍に上がるだろう。しかしそれ以外の子は二軍に上がれずまだまだ走り込み。けれど。
「私はそう思わないよ」
その一言で十分彼には伝わったらしく、顔を綻ばせた。
「#name4#がそう言ってくれて安心した」
「クリス君はどう思う?」
「俺もそう思ってない」
「でしょ?」
その後、クリス君が断固として引かないので送ってもらった。この子なかなかに頑固だ。紳士だけど!
「シニアの時、一度対戦した事あるんだけど覚えてる?」
「覚えてるも何も、シニアで読み合いに完敗したと感じたのは#name4#だけだ。嫌でも覚えてる」
「………」