無骨な優しさ

練習試合が全て終了。結果はまあまあだったが沢山の収穫を得ることができた。
一軍入りを果たしたクリス君はもちろん、丹波君も出場させて貰えたのは一年生にとって大きい。

どの試合でも東先輩は絶好調で二年生で四番を担うだけある事を証明して見せた。


修北が先に帰り、最後は稲実。雅功とせっかく会えたのに球を受けてもらう事もできず、会話すらできなかった。少し前ならほぼ毎日のように顔を合わせていたというのに。

そういえば伸一郎ともしばらく会ってない。御幸君はたまーに連絡くれる。鳴は連絡来すぎてちょっとうるさい。けれど以前のように家に押しかけてくる事はなくなった。彼なりに気を使っているのだろう。ただお姉ちゃんズに止められている可能性もなきにしもあらず。

目の前を稲実の選手が通り、バスに乗り込んでいく。最後尾を歩く雅功と目が合った。本日何度目になるだろう。

寂しいのを悟られないよう視線を逸らしたその時。「チッ」と言う舌打ちの音と共にポンと頭に重さを感じた。顔を上げようとすると、押さえつけられ髪を掻き乱される。そして重さがなくなったかと思うと温もりは素早く離れて行った。
乱れた髪の間から見えたのは雅功の後ろ姿。

嬉しくて、感動して、涙が出そうになった。

「何だ何だ?!」と騒ぎ立てる青道側、「あの子と知り合いなのか?!」とバスの中で盛り上がる稲実側。私の両サイドからは先輩マネさんや貴子からグイグイ引っ張られ「今の何?!」「彼氏いないんじゃなかったの?!」と質問攻めに合う始末。さらに後ろの方に並んでいる一年生たちの視線が痛い。

それでも私はただただ幸福感で一杯だった。彼はこうなることを分かっていたのに気にかけてくれた。それだけで十分。

大人になっちゃって。
一人息子が上京して立派に成長し、帰省した後送り出す母親の気分だった。

ただ今日が合宿最終日で本当に良かったと思う。もしこれが昨日だったら私は寝かせて貰えなかっただろう。


その日の夜。テツ君との素振りが始まる前、同じ事をされた。

「ん?どうしたの?」
「……なんか違う」

彼は首をかしげると今度は更に力強く私の髪の毛をくしゃくしゃにし始める。

「ちょっと?テツ君?いたいいたい」
「……やっぱり違うな」

何がどう違うのか。流石に私も分からず対処する事ができなかった。

その日のテツ君のスイングはやたらと力強かった。やはり練習試合で触発されたのだろう。

「体重移動が速い、もっと溜めて」
「こうか?」
「そうそう、あとまた脇緩んでる」
「む……」

彼に家まで送ってもらうのはまだ先のようだ。