見守っているからこそ

用具の手入れが終わり、鍵を返しに行く。すると監督に頼まれ、先輩の代わりに夏大の残りを観に行くことになった。

球場に着くと一気に現実に引き戻される。青道はまだ時間が止まったままだという事を自覚した。


ビデオをセットしていると隣に誰かが座った。

「お姉さん暇なら遊ばない?」
「どこでそんなナンパ文句覚えたの」

練習着を着た御幸君がニヤリと笑ってみせた。身長が伸びたのか目線がほぼ一緒だ。

「眞白さん一人?」
「そう、先輩の代わりにデータ集め」
「へえ…」

さらにニヤニヤと此方を見る視線に少し痒くなった。完全にバカにしている。相変わらず失礼なやつだ。

聞けばシニアチームの皆で見に来たらしい。遠くで江戸川シニアの集まりが見えた。

「ほら、もう戻りなさい」
「えー!せっかく眞白さんと一緒に見ようと思ったのに」
「向こうで名前呼ばれてない?」
「ちぇー」

背中を押して送り出す。その後ろ姿は少し頼もしく、眩しく感じた。

シニア時代が懐かしい。私も雅功たちと共によく見に来ていた。色んな高校球児を褒めすぎて雅功に「うるせぇ」とよく言われたものだ。しょうがないじゃない、カッコいいんだもの。


青道に戻ると泣き声はもう聞こえて来なかった。ビデオやスコアブックを監督に渡し、一応寮裏を確認すると。

「今日は来ないかと思った」

テツ君がバットを持って待っていた。走っていたのか額に汗が滲んでいる。

「こういう時こそバットを振るしかないだろう」

テツ君は眉尻を下げて少し微笑んだ。そしてバットを構え素振りをし始める。私が来るまで待っていたらしい。律儀なところは昔から変わらない。

彼の著しい成長を感じ目を細めた。若者の成長は早くて目で追いきれない。嬉しくもあるが、私の手元を離れてしまうのが寂しくないと言ったら嘘になる。

「今から言うコースを打つ様に振ってみて」
「分かった、やってみよう」
「アウトハイ、次インハイ、次アウトハイ」
「………」
「同じ所言わないとは一言も言ってないよ」


次の日、朝のランニングでまた東先輩に会った。今日も今日とて凄いスイングだ。挨拶をして去ろうとしたら背中に声をぶつけられた。

「#name4#!」
「はい!」

反射的に立ち止まり声をはる。体育会系の悲しい性だ。

「今日からまたシゴいたるから覚悟せぇ!!」

ホームラン宣言をするようにそう言う彼の目は爛々と輝いている。私もそれに精一杯の笑顔で応えた。

「はい!よろしくお願いします!」