バットを振れば

伊佐敷君が外野にコンバートされた。そう聞いたのは新チームが始動してから間もなくだった。

練習中、走り込んでいる彼らを見ても少し前までの元気が見受けられない。それは一番前を走る彼が一因しているのだろう。

それに部員一人一人の表情も暗い。目標を見失ってしまっているのかもしれない。

けれど気づいた所で見守る事しかできないのがマネージャーというもの。以前のプレーヤーとしての立場に焦がれても仕方ないというのに。


いつものようにテツ君の素振りを見ていたら寮の方から伊佐敷君が現れた。肩にバットを引っ下げている。彼の表情は昼間見た時より幾分か吹っ切れているようだった。

「なーにやってんだ、こんな時間に…お前ら通いじゃねぇのか」

テツ君は素振りをやめて伊佐敷君を見る。その視線で彼は何かに気づいたらしい。

「もしかして…毎日残ってやってたのか」
「ああ、毎日500スイングだ」
「はあ?!一日500スイング?!」
「学校で300、家で200。学校の300はいつもシロに見てもらいながらやっている」
「マジかよ!」

二人が話しているとバットを持った小湊君と増子君もやって来た。増子君の手には肉まんも握られていたが。

四人が笑みを浮かべているのを見て「男の子の友情っていいな」と噛み締める。

「あれ、#name4#は何してるの?」
「結城のスイング見てたんだと」

まあ私の役目はもうなさそうだ。テツ君のスイングも固まって来たし、注意する必要もなくなった。しれっと帰ろうとするとガシリと両肩を掴まれる。いたいいたい。

「シロ、まだ終わってないぞ」
「二重人格ピッチャー様直々に教えてくれよ」

伊佐敷君、顔がヤンキーみたいだよ。てかそれやっぱ知ってたんだ。
冷や汗がタラリと頬を伝った。


「伊佐敷君の持ち味は豪快なスイングなのにコンパクトに振ってどうすんの」
「こうか?!」
「違う、体開きすぎ、脇締めて」

言われている事が正しいと理解しているのか逆ギレはしなかったが、米神がヒクついているのが見える。

「#name4#が手本見せてよ」

にっこり笑顔で小湊君がバットを渡して来た。口ばかりだと思われるのも癪なのでそれを受け取り軽く素振りして見せる。

「さすが言うだけあるね」
「シロのスイングはいつ見ても綺麗だ」
「洗練されてる」
「これで文句言えなくなっちゃったね」
「うるせぇ!」

騒ぐ彼らを横目に遠くを見つめる。明日から来るのやめようかな。


そう思ったのに翌日も小湊君とテツ君に阻止され、伊佐敷君に引っ張られて付き合わされた。もう勘弁してくれ。

その後、丹波君や宮内君など他の一年生も集まり始め、先輩の自主練に付き合った後はここに集まる習慣ができた。

私も貴子を巻き込んでオニギリを差し入れした。その際、貴子のオニギリが綺麗になっていたのでワケを聞くと家でこっそり練習したらしい。可愛すぎる。
その上、皆んながリクエストしたオニギリの具材もメモしてるし健気すぎる。

「じゃあ貴子、送るね」
「待ちやがれ!まだ俺のスイング見てねぇだろうが!」
「じゃあ代わりに伊佐敷君が送ってくれる?」
「はあ?!何でだよ!」
「夜道をこんな美女一人で歩かせるわけにいかないでしょ?帰って来たら見てあげるから行った行った」
「………藤原行くぞ!」

やっぱりポメラニアンみたいだ。