投手のプライド

伊佐敷君のスイングにダメ出しをしていたら他の一年からもダメ出し要求され始めた。私の持っているものは全て使って彼らを輝かせてあげたい。その一心で厳しい言葉をかけ続ける。
ただコーチという正式に人を指導できる立場ではない。しかしマネージャーとしてでもなく、いちプレーヤーとして教えることにした。たまに騒めく心は無視を決め込む。今はマネージャー業一筋でいたいから。

そんな時。

「俺のシャドー…見てくれないか…」

丹波君がタオル一枚持って現れた。
バットを振る一年の横でシャドーピッチングをしている彼はいつも視界に捉えてはいた。ただ投手というのはややこしく、他人に口出しされるのを嫌がる選手もいる。ましてやマネージャーに何かを言われるなんてプライドが許さないだろう。そう思い、あえて声をかけないでいたが、彼は私に声をかけて来た。

「じゃあ…ミット持って来れる?実戦に近づかせるためにもシャドーの時はミット込みの方が良いよ」
「わ、分かった!」

嬉しそうに寮へ走って向かう背中を見送る。

彼はまだ体は薄いものの、身長が高く手足も長い。投手としてのポテンシャルは十分にある。ただ中学まで控えの投手だったためか投手としての気概が足りなさすぎる。甘んじてしまうほど中学のエースがすごい投手だったのか。


戻って来たため、彼のシャドーを見せてもらうことに。少し恥ずかしそうに立つ彼の横に立って様子を見る。力んでいるのか体が強張ってるのが直ぐ分かった。

「そんな緊張しなくて良いよ?肩に力入り過ぎ」
「あ、あぁ…」
「軽くジャンプしてみて」

10回ほど軽くジャンプをしてもらってから今度こそシャドーを見せてもらう。
目の前をタオルが勢いよく流れた。

「ど、どう…かな…」

私は少し驚いて目を瞬かせる。こんな感じだっけ。やはり離れて見るのと近くで見るのは違う。
タオルの音もしっかり出てるし、トップの位置も肩の動きも悪くない。強いて言うなら軸が少しブレるぐらい。思った以上にフォームは仕上がっていた。

「…ちょっと手見せて」
「………?」

不思議がる彼の両手を手に取ると、しっかりケアされている手だった。投手なら当たり前なのだが、彼は中学時代、決して二番手に甘んじていたわけではないようだ。

自然と口角が上がった。こういう投手としての片鱗を見せつけられると背筋が伸びる。

「シャドーする時、何考えてる?」
「フォームの事しか…考えてない…」

話している時、視線が定まらないのは自信がない証拠。彼は自信を身に付けることができたら大きく成長できるかもしれない。

「軸がブレブレ、体幹ちゃんと鍛えてる?」
「あ…あんまり…」
「フォームはそのまま磨いたら良いと思う」

「#name4#が褒めた…?」
「あの#name4#が…?嘘だろ?」
「いつも俺らのスイング貶しまくるアイツが…?」

外野がうるさいのは無視。