修羅降臨

調理場から忍び込んで中の様子を見ると、クリス君以外の一年生が勢揃いしていた。皆深刻な表情を浮かべている。

話を聞いているとどうやらなくしたのは私のだけで貴子のは本人の手元に返って来ている様だった。それなら良かったと一安心。

「一応聞くけどよ、もう実は返したってヤツいねぇよな?」

伊佐敷君の言葉に誰も反応を示さない。私の手元には一つも返ってきてないのだから当然である。

「結城くんの言う様に正直に言えば眞白なら許してくれると思うけど…」

貴子が進言すると、伊佐敷君が激しく首を振った。

「んなわけねぇだろ!さすがのアイツも怒る!バレたらもう二度と写させてくんねぇぞ!」
「それは困る!いつも英語のプリント写させてもらってんのに!」
「俺も毎回実験レポート写させてもらってる」
「あと俺は数学の課題も…」
「俺はこないだ古典のプリントも…」

どんよりとした重い空気が立ち込める。
確かに君たち私に課題方面で頼りすぎ。甘やかしてしまう私も悪いけど。

「そういや#name4#は今何してんだ?」
「たしか用具倉庫前でボール磨きしてたぞ、しかも狙い撃ち歌いながら」
「シロが狙い撃ちを歌っている時は機嫌いい証拠だ」
「へぇ、さすが幼馴染」
「確かにそうかも」

聞かれてたんだ、と少し恥ずかしくなった。確かにその時、山崎君の後ろ姿が見えた気がする。
というかテツ君、恥ずかしい情報を晒さないでほしい。

残念ながらボール磨きはその後来た先輩マネさんと共に行い、早々に仕上げて来た。だからここにいるわけだが。

「哲、#name4#が怒るとどんな感じなんだ?幼馴染なんだし一度くらいあいつが怒ったところ見たことあるだろ」

斎藤君が聞くとテツ君は固まってしまった。

彼に怒ったことは斎藤君の言う通り、一度だけある。それは小学生の頃、テツ君とマサ君が川遊びで怪我をした時。それ以来、二人は無茶な遊びをしなくなり、私も怒っていない。

「………修羅だ」

その場が波を打った様に静かになった。
そんなに怖かったかなあ。怒るというか叱るに近かったから当時の彼はそう感じたのかもしれない。記憶というのは勝手に一人歩きする物だから仕方ないだろう。

「というか、全員、課題は写し終わってるの?」

小湊君が問うと皆口々に答えた。どうやら全員ところどころ終わってない様だ。

「そうだ!藤原のヤツをコピーして渡せばバレないんじゃね?!」
「えっ?私の?流石に字が違うと思うけど…」
「ちょっと藤原の見せて!」
「いいけど…」

貴子のノートを広げて皆確認する。言うほど似てないと思うが彼らにそれを確認する手立てはない。

「確かに…似てるかも?」
「言われてみれば?似てる?」
「似てんじゃね?女子って皆こんな字だろ」
「よし!じゃあ#name4#にコピーしたやつ渡そうぜ!」
「そうと決まれば部長に言ってコピー機借りなきゃだな!」

「部長、さっき帰ったよ」

「はあ?!マジかよ!…って今誰が言った?」
「藤原どうかしたか?」

彼らは貴子のノートを持って食堂を飛び出そうとしていたが、調理場から顔を出す私を見て一気に顔が真っ青にした。

「#name4#?!?!い、いつからそこに…」

調理場から食堂に足を踏み入れ、ニッコリ微笑みかける。

「とりあえず全員座ろうか?」