3月の対外試合解禁までのシーズンオフ期間。練習は基礎練習に立ち返り、よりハードな内容になった。それでも選手達はめげずにメニューをこなしていく。それでこそ支えがいがあるというもの。
そんな最中、練習終わりに監督から呼び出された。誰かがこないだの小テストで0点でも取ったのだろうか。心配のタネの伊佐敷君は貴子に任せた結果大丈夫だったと聞いているし…
「失礼します」
不安を胸に抱えたままスタッフルームに足を踏み入れた。
中には監督、部長、副部長のお三方。思わず背筋が伸びる。呼び出されたのは私だけで他に誰もいない。
「田之倉さん、例のやつ持って来た?」
「え…あ、はい。いつも高島先生に見せてるやつですよね」
カバンから高島先生の言う例のやつを取り出す。これはミニミーティングでいつも高島先生に見せているもので、今年の春から掻き集めた青道野球部全員のデータである。
分厚いバインダーを机に並べると監督と部長は目を見開いていた。確かにこんなに量あるとは思わないでしょうね。私もこれ持ち運ぶの結構な重労働なんです。最大の原因は部員の多さにある。
「こ…こんなに沢山…これは一体…」
「選手個々の能力データです。レギュラー陣は見やすいようにグラフにもまとめてあります」
「見てもいいか」
「はい」
監督がバインダーを開いた。地味に緊張する。高島先生は何故か誇らしげだ。部長は「すごい!」だの「おお!この選手まで!」だの騒いでいた。この人にはもう少し落ち着きが欲しいと常々思っている。
「よく纏められている」
「ありがとうございます」
監督に褒められた!と内心ガッツポーズ。マネージャーにはあんまり普段から厳しくないけれど、褒められるのはやはり嬉しい。
「冬合宿前に朝練の個人課題メニューを見直そうと思っていてな、田之倉にはこれらを踏まえた上でメニューを組んでもらいたい」
はい?
「私が推薦したのよ、田之倉さんならできると思って」
「たしかに…これだけ細かく選手を見れているなら的確なメニューを作ってくれそうだ!」
ちょっと待って。というか高島先生、なんでもっと前から言ってくれなかったの。半月前見せた時、「これなら春からもばっちりね」って言ってたアレは何だったんですか。
お三方の表情を見渡すと期待を込めた眼差しを向けられていることに気がついた。いやいや待ってくれ。
「…引き受けたいのは山々ですが、私はまだ一年ですし先輩達が従ってくれると思いません」
「それは大丈夫よ。東君を筆頭に皆、貴女の頑張りは認めているわ」
いやそういう問題じゃなく!一年が出しゃばるべきじゃないでしょうって事なんですが。
「一年分以下のデータだけでは正確とは言い切れませんし…」
「だからこそ最近の弱点が分かって良いんじゃないか!大したもんだ!」
そうじゃない。そういう問題じゃなくて。
「チームが強くなるためだ。だが無理にとは言わん」
監督からの視線が私を射抜いた。本気さがひしひしと伝わってくる。
もう腹をくくるしかない。90度に体を曲げ、腹から声を出す。
「誠心誠意、やらせて頂きます!」
あーもう!なるようになれ!