冬合宿が始まった。この合宿は引退した三年生が練習に付き合ってくれる分、選手達は思う存分体を鍛えることに専念できる。
冬休み開始の12月23日から30日までの一週間、怒涛の日々らしい。先輩達が「今年もやるしかねぇか…」と悲壮感に打ちひしがれていたため、相当追い込まれるのだろう。
しかし朝から晩まで野球漬け。羨ましくないと言ったら嘘になる。
ただ彼らだけでなく、憂鬱になるのは私も同じ。何故なら合宿期間、寝泊まりが寮になるため選手が起きて来る前に私自身のトレーニングをしなくてはならないから。東先輩にはバレているものの、チーム全体には絶対バレたくない。
問題は二日目。
選手達が起き始めるのは5時半。ということは。
むくりと起きて携帯電話で時刻を確認する。ぴったり4時。先輩や貴子が起きない様、素早く身支度を整え部屋を出た。
息を殺して階段を降りる。そして一階のテツ君が寝泊まりしている部屋の前に立てかけているバットを手に取り、寮裏の土手に上がった。
テツ君には借りる事を事前に了承得ている。最初はテツ君も参加したいと言っていたがさすがに辞めさせた。
まだ夜明け前の真っ暗な中、黙々とメニューをこなしていく。入念なストレッチ、ランニング、ランメニュー、素振り、シャドーピッチング。普段の夜メニュー分もこなし、一息つく。
ふと監督室の灯りが点いているのが見えた。あの人もう起きてるのか。携帯を開くと時刻は午前5時10分。やばい。
クールダウンをしてから土手を下り、バットを元の位置に戻す。できる限り汗を拭き取り、部屋に戻ると先輩が起きていた。
「あれ、こんな朝からどこか行ってたの?」
「目が覚めちゃったので散歩に行ってました」
…あながち間違いではない。たぶん。
その後、貴子を起こし、二日目の冬合宿がスタートした。
「ふぁ…眞白って朝強いね」
「まあね」
「私も強い方だと思ってたけど負けるわ」
そりゃあ朝から運動してましたから。
それにしても寝起きの貴子は可愛かった。
「そう言えば先輩、寝言で白石先輩の名前呼んでましたけどあれって…」
「えっ?!ウソ?!」
「ええっ!そうなんですか!」
「今日の夜が楽しみですね!せーんぱいっ」
「こらぁ!#name4#!」
「ドリンク作ってきまーす!行こう貴子!」
「うん!」
怒る先輩をかわして貴子と走った。笑顔が眩しい。
水道に着くとドリンクを作っていく。もう慣れたものだ。ただ寒くて指がかじかむ。こればっかりは仕方ないけど。
「先輩の寝言ってどんなのだったの?」
「ああ、あれは嘘だよ」
「ウソ…?」
「前から先輩が白石先輩の事、目で追ってるなあって思ってたからカマかけただけ」
「全然気づかなかった…」
「先輩にはナイショね」
「う、うん…」
中学時代、恋バナは組織に溶け込む擬態だと思っていたのに野球部が関わってくるとまるで違うらしい。自ら率先して加わっている自分の変化に驚きだ。